第56話

「凛!!早く来い!!置き去りにするぞ!!車だからってのんびりすんなよ!」



現在、清々しい朝の時間。


そんな時間帯に怒鳴り声は似合わないものだ。



「亜紀。うるさい」



「お前、マジでマイペースだな」



「まだ、ギリセーフだよ」



「いや、急げよ。なんで、今日は遅いんだよ」



「バスじゃないから?」



「………………」



あっ、怒るぞ。



「亜紀君。凛。その辺にして急いで行きなさい。本当に遅れるから。行ってらっしゃい」



グイグイと背中を押されながら外に出る。


車に乗り込みすぐに出発。



「お前、いつになったら自分で運転出来んだよ?」



「さぁ?いつだろうね。お父さんとお母さんに聞いてよ。もしかしたら、一生来ないのかもしれない」



「説得しろ。車は飾りじゃねぇぞ。つーか、運転しないと車は壊れる」



「大丈夫。お父さんとお母さんがちゃんと使ってる」



「いや、お前の車だろ」



「今日はお昼の時間だからね」



「分かってる。入り口のところにいる」



「それはやめて。学校の駐車場にいて」



「なんで?」



「目立つから」



顔を隠さないでそんな場所にいるのは目立つ。


たくさんの人がそこを通るのだ。


車の中でも見えるはずだし。



「あーっ、なるほど」



「やめたんでしょ?隠すの」



「あぁ。やめた」



「亜紀は目立つ。囲まれたいならいいけど。私は全力で無視する」



「やめろ。囲まれたくねぇよ。無視するな。あと、駐車場でも目立つだろ」



「正面よりマシでしょ。車で通う生徒は少ないから」



「待ち合わせの場所、店にするか?」



プリン専門店?


そうか。


その手があったか。


学校から近いし。



「そうね。それがいい。お店にいて。カフェも増設されてるらしいから。お店に入っててもいいし」



「あーっ、時間による」



時間?


まぁ、お店に間に合うならいいけど。


学校に着くと何やら教室内が騒がしいことに気づく。


今度はなんだ?



「椎名さん。おはよう」



「おはよう………………大塚さん。どうしたの?その手」



大塚さんの手には包帯が巻かれていた。



「あーっ、これ?」



「そう、それ」



「実は、昨日の帰りに後ろから押されちゃって。階段から落ちちゃったの」



階段!


階段から落ちた割には外傷が少ない。



「よく手だけで済んだね」



「いや、落ちたって言っても3段から。そんなに高い位置じゃないよ。私だけじゃなくて他の人も落ちちゃったらしくて。私は軽症で他の人はもっと酷いよ。骨折しちゃった子もいたから」



「何?集団自殺かなんか?」



「いや、何言ってんの?怖いから」



「だって、他の人も落ちたって」



「5人くらいね。雪崩のように落ちたよ。2番目の高い位置にいた子は頭を打ったらしくて、病院に運ばれちゃった」



「巻き添えってこと?押し潰されなかったんだね」



「私もそう思ったよ。本当にびっくりした。手だけで済んだから良かった」



でも、その手だと料理が出来ないよね?



「だから、教室が騒がしいの?」



「あーっ、まぁ、うん」



何?


なんか歯切れの悪い言い方だ。



「なんかあるの?」



「どうやら、一番高い位置にいた子がわざと落ちたんじゃないかって。その子の前にいた子が日向君絡みだったらしくて。嫉妬からの行動で、その子を巻き込んで落ちたんじゃないのかって。その子がクッションになって一番上にいた子は頭も打ってないし足だけ挫いて無事だったらしいよ」



なるほど。


それは、とても怪しい話だ。


何もないところでそんな話にはならないだろう。


だとすると、日向絡みという話は本当だろう。


だが、その子が捨て身でやったという話は分からないが。



「でも、本当に大怪我しなくて良かったね。反射神経いい証拠だよ。瞬時に手で体をカバーしたんだね」



「椎名さんの考えってなんか凄いよね」



えっ?


何が凄いの?



「他の学科のことだけど、噂は拡大するものでしょ?日向君を心配している子が教室に来てるって感じ」



「そっか。心配する相手間違ってるね」



「………………椎名さん。本当にズバッて感じだね」



階段ねぇ。


………………。


まさかね。


これも、海がちょっと唆したとかじゃないよね?


流石に、それは………………


ないよね?

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