第55話
ご飯が出来てお父さんを呼びに行く。
ドアを軽くノックするとお父さんの声が聞こえた。
少し待つとドアが開けられる。
「ご飯出来たよ」
「うん。ありがとう」
「持って来る?」
「大丈夫。みんなと一緒に食べるよ」
そう言って私と一緒にリビングに戻る。
テーブルには私が作った夕食が並んでいる。
煮魚とご飯と味噌汁。
野菜と漬け物と煮物。
「煮物まで作ったの?頑張ったね」
「圧力鍋で簡単調理。早く出来たよ」
「麻矢が買ったけど、使わない圧力鍋か。使うから買ったはずなのに、怖いから使わないとか言ってたね」
「うん。私とお父さんしか使わないね」
「結構いいの買ったんだよ。俺は、安いのでいいって言ったのに。高いのは色々便利って言ってね。そんなにバリエーションある料理なんてしないのに」
「豚の角煮は簡単に作れるから嬉しい。トロトロになる」
あっ、豚の角煮食べたくなった。
「おっ!ちゃんと大根に味が染みてる」
「亜紀君。先に食べないで。君ねぇ、もっと常識を考えて」
「腹減った。待ってられねぇよ」
「本当にこの子は」
椅子に座って亜紀が言った大根を食べる。
確かにちゃんと味が染みている。
やっぱ、圧力鍋って凄いな。
「あっ、亜紀君。明日暇?暇でしょ?暇だよね」
いや、それはもう強制だよね。
亜紀を見るとお父さんの威圧を感じて顔が引き攣ってる。
「な、なんだよ。変なことはお断りだ」
「そっか!暇んなんだね!」
「暇とは言ってねぇよ!!!」
そうだね。
暇とは言ってないよね。
でも、お父さんには暇しか受け付けないだろうな。
「亜紀君。明日、車貸すからちょっと出かけてくれない?みんな忙しくてさ。データだけなら良かったんだけど。荷物もあるんだよね。ちょっと重いけど。俺の代理ですって言ってね。じゃないと、閉じ込められてどっかに埋められちゃうかもしれないから」
「………………いや、何をさせようとしてんだよ。物騒なことさせんなよ」
「何言ってるの?いつも物騒なことしてるでしょ。ただ、届け物をお願いするだけなのに。ちゃんとバイト代出すよ。無償で頼んだりしないから」
「いくら?」
「一万」
「安い。危険手当付けろ」
「えーっ、いらないでしょ」
裏の仕事か。
データなら何かの情報なのだろう。
荷物は知らないけど。
「ちなみに、帰りに凛のこと迎えに行ってあげてね」
「んぁ?近いのか?」
「うん。あとで場所を教えるけど。本当は海に行って欲しかったんだけど、別件を頼んでいるからさ。そっちを優先して欲しくて」
「臓器じゃねぇよな?」
「そんな気持ち悪いものじゃないよ。あと、食事中にそんなこと言わないで」
全くだ。
不味くなるでしょ。
「凛。明日って午前中で終了だったよね?」
「えっ?」
そうだっけ?
あれ?
「あれ?まさか、忘れてる?午後は先生の会議があるから休みになるって、学校行事のカレンダーに書いてあったよね?あと、行く時も亜紀君の運転で学校まで送ってもらって。行く時間が午前中なんだよ。もう、一緒に行っちゃいな。数時間くらいどっかで潰して待てるでしょ?ねっ?亜紀君。あっ!帰りにプリン買ってきて。麻矢が電話でプリンが食べたいから買ってって。なめらかプリンがいいって。ほらっ、凛の学校の近くにプリン専門店あったでしょ?ちなみに、予約済だからね。椎名凛で予約してるから。んで、仕事先に持って行ってね。日持ちしないから」
「注文多いな!!マジで!」
「居候なんだから、手伝いなさい」
「手伝う範囲超えてるぞ!危険手当!」
「プリン」
「アホかっ!なんでプリンが危険手当になるんだよ!胃の中に入れたら何も残らないだろ」
「甘くて美味しいよ。幸せになるよ」
「普通に金を寄越せや」
「全く、最近の子供はお金お金うるさいなぁ」
「自分が何を頼もうとしてんのか分かってるのか?子供に何を頼もうとしてるの分かってるのかよ」
午前中なら間に合うかな。
あそこのプリンは瓶入りのプリンだからそれなりに重いし、亜紀がいるなら凄く助かる。
仕事先に持って行くならお母さんに会えるかも。
「お父さん、何個頼んだの?」
「200個」
「………………」
数が凄かった。
そんなに頼んだの?
そんなに人いたっけ?
お母さんの部門ってそんなにいたっけ?
「あとでお金渡さないとね。麻矢、甘いもの食べないと死んじゃうって。糖分が足りないって。全部やり直しされて頭の中がパーンって弾けそうだって」
「そ、そうなんだ………………大変だね」
「凛。びっくりしないでね。あと、着替えよろしくね。車に積んでおくから。洗濯物も持ってきて」
「うん」
会ったらすぐに帰ろう。
邪魔はしちゃいけないな。
少しでも早く終わって欲しいし。
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