第54話

外は大雨で交通機関にも影響しそうな日。


そんな日なのに橋本先輩から呼び出しがあった。


何やらサークル全員参加の会議だとか。


サークルに行くと橋本先輩の号令でみんながホワイトボードに注目した。


ホワイトボードには研修会についてと書かれている。


研修会?



「椎名さん。久しぶりだね」



「橋本さん。久しぶり」



私の隣に来たのは橋本先輩の妹だ。



「椎名さんは聞いた?今度、研修会で京都に行くんだって。もちろん、スイーツ関係だよ」



「聞いてない。旅費は?」



「実費」



そうなるよね。


京都で研修?


なぜ京都?



「なぜ京都なの?」



「先生だった人が京都で店持ってるの。店が忙しく先生を辞めたらしくて。ここのサークルの元顧問だった人で、京都で研修してみないかって誘われたらしいよ。でも、結構お金掛かるし。自由参加になるけど。その人って繋がりが凄いらしくて、いろんなお店を紹介してくれるって。和菓子専門で考えてる子は全員参加するらしいけど。椎名さんはどうする?私は行くことにした。スイーツ班と料理班で別行動だって。ホテルの予約は代表者がやってくれるらしいけど、金額を抑えたいのなら自分で探すべきだね。一泊2000円とかあるから。部屋の設備はそれなりだけど。やっぱ、金銭面を気にする子が多いからさ。集合場所にちゃんと来られるなら自由だよ」



京都か………………


観光シーズンじゃなければホテルの料金もそんなに高くないはずだけど。



「いつ行くの?」



「今度の連休を使って。金曜日の夜に夜行バスで出発」



連休なら高いよね。



「ちょっと聞かないと分からない」



「そっか。まぁ、1万とか2万で済む話じゃないし」



京都なら色々出費も多そうだ。


移動費だってあるし。


食費も考えなければならない。



「お金掛かるね」



「そうだね。学校は1円も出してくれないし。先生も同行しないし。全部、自分達でやらなきゃいけないし。大変だよね。現地集合現地解散って感じだよね」



ちょっと悩む。


京都か。


コンテストもあるしなぁ。


行ってる暇がない。


でも、お店を見られるのってなかなか見られないことだ。



「椎名さん。京都に行く?」



日向が私の目の前に来た。


あれから、日向の様子は変わり始めている。


中身というより外面だ。


首のキスマークが全く消えないのだ。


毎日、新しいキスマークが付けられているようだ。


先生もそれにはびっくりで指導したらしい。



「さぁ、どうかな。ちょっと考える」



「なんで?こんな機会ないのに。考えるの?」



「家庭の事情」



「家庭の事情?椎名さんの家ってお金あるでしょ」



そんな話ではない。


お金があるから行くとかではないのだ。



「椎名さん。雨大丈夫?酷くなってるけど。高速バス大丈夫?電車も遅れてるらしいから。バスにも影響出てないかな?」



橋本さんが外を見ながら言った。


確かに、先ほどより雨が酷くなっている。



「私、帰るね。橋本さんも気をつけて帰って」



「うん。椎名さんもね」



橋本さんのお陰で日向から離れることが出来た。


短大から出て急いでバス停に向かう。


バス停に着くと行列が出来ていた。


どうやら、バスの時間が遅れているらしい。


これは、乗るまで時間がかかりそうだな。


2時間ほど待ってやっとバスに乗り込むとすぐに出発した。


雨は地元に着くと止んでいた。


家に着くと亜紀が猫とリビングで遊んでいた。



「おかえり」



「うん」



あれ?


亜紀だけ?



「お父さんは?」



「あ〜っ、仕事部屋だ。煮詰まってる」



なるほど。


必死に考えてるのか。


なら、私が夕ご飯の準備をするか。



「お前、今日も早く帰って来るって言ったのに遅かったな」



「うん。サークルの先輩に呼び出しされたの。研修会があるんだって」



「研修会?」



「京都に行くらしい。でも、自由参加」



「ほう、京都か。楽しそうだな」



「楽しいことはしないと思うけど。遠足じゃないんだから。観光はしないよ」



「行くのか?」



「う〜ん。どうかなぁ。コンテストもあるし。そんな暇ないかも」



お父さんは仕事が忙しいみたいだし。


今日はやめておこうかな。


私は、荷物を置いて今日の夕ご飯を作るためにキッチンへと行った。

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