第53話

「目が死ぬ。このままだとドライアイになっちまうよ」



「早めに病院に行って」



「そうじゃねぇだろ。もっと違うこと言えよ」



「違うこと?」



違うことねぇ。


………………。


私ではドライアイは治せない。



「例えば?」



「………………言わせるなよ」



いや、亜紀が言い出したことだよね。



「猫達は?」



「戯れてる。遊ばせてやれ。ちなみに、物置部屋にいるぞ。パソコンの上に乗るとかマジでやめてほしい。あれは分かってやってるぞ」



「誰が?」



「ムーンが。レインはやらん。ムーンだけがやる。本やら新聞やらスマホやら。自分を見ろアピールが凄い。んで、構うと嫌がる。面倒な野郎だ」



それってちょっと見たいかも。


ただ、邪魔したいだけって。



「凛。ちょっと手伝って」



「うん」



お父さんに呼ばれてキッチに行く。



「大根を銀杏切りにして」



「何作るの?」



「豚汁」



豚汁か。



「ゴボウないけどね。豚を入れちゃえば豚汁だよ。あと、玉ねぎが成長しちゃってるからそれも入れる。さっき、玉ねぎ見たらびっくりだよ」



食の仕事をしてるのに、そんなんでいいのか。


まぁ、自分の家でも完璧に過ごしたくはないか。



「凛。日向君はどう?来た?」



「来たよ」



「そっか。元気だった?」



「特に体調が悪そうには見えなかった」



「隠すのが上手だね」



「強めのスタンガンだったの?」



「改造されたスタンガンだって。凄い刺激的らしいよ。何度もやられちゃって」



へ〜ぇ。


改造されたスタンガンは体験したことないかも。



「凄い刺激的ってもんじゃねぇよ。マジで痛いからな」



亜紀はいつの間にかキッチンを挟んだカウンターの前に立っていた。



「亜紀君。体験したの?それは可哀想に」



お父さんはニヤニヤとした表情で亜紀を見る。



「楽しくないからな。アレは何度もやるもんじゃねぇよ」



「やられちゃった子がいるけどね。素人は分かってないから」



「改造するアホはただの素人なのか?」



「お友達が改造したみたいだよ」



「友達は選ぶべきだな。そのアホは」



「お似合いだと思うけどなぁ」



スタンガンを改造した友達か。


ストーカーにはちょうどいいのだろう。



「で?今日は、普通に過ごしていたの?彼は」



「友達が気づいたんだけど。首にたくさんのキスマークがあったって」



「ありゃ、それは執着凄いね。自分のものって印付けたんだ。隠さないで行ったんだねぇ。隠すなって言われたか。それをちゃんと守るのも凄いよね。本当に抵抗しないね」



切った大根をザルの中に入れる。


すると、目の前に人参を出された。


これも切れってことか。



「それって、周りにバレるよな?んで、激しくなるよな?もっと激しくなったら誰も制御出来ねぇだろ。ソレ」



「そうだね。ファンクラブでは無理だね。会長がもっと派手にやらかしたら、争いが起きるだろうし。中心にいる日向君は我慢出来なくなっちゃうかもしれないし。本当に内から壊れるのは簡単だよ」



「海の仕業か」



「彼は本当に少しだけだよ。餌になりそうな子を見つけたんだ」



「それに食い付いた奴は本当に残念だな」



「表の子は本当に可愛いよね。簡単に引っかかるから」



夕食の準備をしながら黒い話をするってどうなの?


なんだか、不味くなりそうだな。



「それより、さっきの失敗作は?」



「ん?皮のこと?アレはね、デザートにするよ。冷凍庫で保存できるように」



デザート?



「アイスを入れる。冷凍して保存可能だし」



あっ、その考えはなかった。


アイスか。


………………。


美味しそうだ。


皮の味は大丈夫だし。


問題は色だし。


うん。


アイスだな。


よし、大量に失敗したら全部アイスを包む皮にしよう。



「大量にあるから、何個でも食べていいよ。でも、ずっとアイスは無理だね。汁物でも考えるか。あれ?なんか、これって俺の仕事っぽくない?凛、これもお勉強だよ。考えなさい」



あっ、気づいたか。


時間がないから任せようと思ったのに。


逃げられなかったか。


まぁ、仕方ない。


次回は考えるか。

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