会長対亜紀

第52話

次の日。


日向はちゃんといた。


特に変わった様子もなく普通だ。


遠藤先生の評価も全く気にしていない様子だ。


こうなることが分かっていたのかもしれない。



「椎名さん。私の手が死にそうだよ。なぜ、手で泡立てるのかな?」



「手というより腕だよね。ずっと同じスピードでやるの大変だよね。私も、凄く痛いよ。いつも電動だから」



「テストやるんだって。不合格の人は合格するまで居残りらしいよ」



それは嫌だな。


居残りはしたくない。


たくさん作った生クリームをどうするのだろうか。


先生達で食べる?


いや、そは無理だな。



「お昼行く?」



握力が弱まっているが、お弁当は持てるし。



「そーだね。お昼の時間終わっちゃうし」



いつものようにお弁当を持って中庭のベンチに座る。



「ねぇ?見た?」



「何を?」



「日向君の首」



首?



「すっごいキスマークだらけだった」



………………。


大塚さんはどこを見ているのか。


いつも首を見ているの?



「大塚さんは首が好きなの?首筋フェチ?」



「違うから。あれは、誰でも気づくでしょ。一つ二つじゃないから。首元隠してないからさ」



「みんなに見せたいんだね」



「アホでしょ。自分が遊んでますって言ってるもんだよ。だから、女達が集まるの。自分も遊んでくれるって思っちゃうんだよ」



首元を隠してないか………………


ワザと隠さないでいるのかもしれない。


そういうお願い事をされたのかもしれない。


女同士の醜い争いが起こりそうだな。



「遊び放題って男にとったら幸せでしょうね」



「遊び放題って………………選び放題じゃない?それって」



「どっちも言えるね」



「休んだ理由って女と遊んでいたからかな?最低」



日向の評判が下がるな。


賢い女は日向のことを嫌がるだろうし。


男も日向のこと馬鹿にするだろうし。


日向狙いの女は嫉妬で狂いそうだし。


想像出来る出来事が起きそうだ。


放課後、サークルに行かず家で試作品作りをするためにバス停まで歩いていた。


家に帰れば亜紀がいるが、邪魔するような男ではないだろう。


邪魔するならお父さんに怒られるだろうし。



「椎名さん。もう帰るの?サークルには行かないの?」



あ〜っ、見れば分かるでしょ?


私を呼び止めたのはファンクラブの会長だった。


後ろを見ればボサボサな髪の女が立っている。


丸刈りにしてやろうか?



「行きません」



「なんで?」



「バスが来るからさようなら」



この女と長く会話なんてするつもりはない。


会長は追いかけて来る様子はなかった。


家に帰るとお父さんがお母さんの着替えなどをバッグの中に入れているところだった。



「凛。ごめん。ちょっと着替え届けに行ってくるね。亜紀君は物置部屋で仕事してるから」



「分かった」



そう言ってお父さんは慌てて出て行った。


よし、私は試作品作りだ。


お父さんが戻って来たのは2時間後のこと。


なぜか、荷物が増えている。



「いや、参ったよ。こんなに溜め込んで。洗濯物凄いよ」



なるほど。


お母さんが溜め込んだ洗濯物か。



「お母さんの様子は?」



「そうだねぇ。妖怪のように机にしがみついてる感じ」



それは酷い。


それ、本人に言ったら絶対に怒られるやつだ。



「試作品作り?」



「うん」



「そうなの?」



「見ての通り」



テーブルには失敗作は並んでいる。



「これ、皮だけ?」



「うん。皮だけ」



「中身までいかなかったんだ」



「そこまで辿り着かない」



「この失敗作はどうする?」



「………………お雑煮的な?」



「いや、材料がない。仕事先に持っていくのも、皮だけだしねぇ。まぁ、アレンジしてみるよ」



お父さんは失敗作をキッチンに持って行った。


どうしようか悩んでいたところだったので良かった。



「あーっ、目がチカチカする」



仕事をしていたという亜紀がリビングにやってきた。



「何かやってたの?」



「パソコンと睨めっこだ。資料をまとめてた。あの糞親父が。数字が苦手だからってなんで俺に押し付けやがる。自分でヤレッて。俺がいなくなってからどうすんだよ」



「お疲れ様」



頼りにされてるってことでいいじゃない。


ソファーに座った亜紀はテレビを付けた。


なんか、凄く自分の家にいるように過ごすのね。

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