第51話

「ちゃんと了解はとったぞ。俺、偉いだろ」



「いや、猫だけ預けなさいよ」



「3匹の面倒見るの大変だろ。俺がいたほうが助かるぞ。俺のペットだしな」



本当にお父さんは許可したのか?



「確認してくる」



「は〜ぁ。だから、ちゃんと了解もらったって。嘘じゃない」



そう言っているが一応お父さんに確認してみる。


すると、キッチンで夕ご飯の準備をしていたお父さんが平然と「したよ」と言った。


もう、ポカンとするしかない。


そんな簡単に言わないでほしい。



「寝る場所はどうするの?」



「物置になってる場所に寝て貰うよ。まぁ、夜はいないだろうけどね。そうだよね?亜紀君」



お父さんはソファーに座って猫3匹を撫でている亜紀を見る。



「あぁ、まぁ、仕事でいない。朝帰りだなぁ」



「お仕事忙しそうだね。亜紀君は色々抱えてたからね。全部、終わらすの大変でしょ?なんで、そんなに忙しいのかな」



「俺の裏は普通じゃないから。だから、忙しい。そっちとは違う」



「まぁ、仕事内容が別ものだからね。お父さんと一緒に仕事してるの?」



「してない。俺だけ。そういう約束だ。あの糞親父、ワザと間違った情報教えやがって。マジで半殺しにしてやる」



「亜紀君はまだ勝てないよ。反対に半殺しにされるからね」



そんなあっさりと了解しちゃって。



「はい、ご飯にしようか。今日も卵料理になりまーす。天津飯。これで、卵は使い切った。亜紀君がいてくれて良かった」



テーブルにはふわトロな天津飯があった。



「マジか。家庭で天津飯が出てくるのかよ。うちのババアは絶対に作れないな。厚焼き卵も失敗する母親だぞ」



「母親のことを馬鹿にしないの。優しいお母さんだと思うけどね」



「どこが優しい母親だ。あれは鬼だ。実の子供を庭に放り出す母親がいていいと思うのか?」



「亜紀君は昔からヤンチャな子だったんだね」



「そこじゃねぇよ」



2人の会話には入らず出来立ての天津飯を食べる。


見た目通りにふわトロだ。


幸せ。



「凛、美味しい?ちょっと自信作」



「うん。美味しい。ふわトロだよ」



「良かった」



美味しい。



「お前、顔に出るようになったな。自然に」



亜紀は私を顔を見ながら言った。


何が顔で出るようになったの?



「何が?」



「美味しいって顔。前より自然になってる。んで、めちゃくちゃ可愛いぞ」



「………………」



これは、なんて答えたらいいのだろうか。



「亜紀君。父親がいる前で口説かない。凛も固まってるし」



「いつ口説けばいいんだよ」



「それを、なぜ俺に聞くのかな?あのね、大切な娘を口説けって言う親がいるわけないでしょ」



「女は口説くと輝くもんだ」



「気持ち悪いこと言わないで。おじさんみたいに」



「昨日、仕事で会ったハゲが言ってた。俺が考えたわけじゃねぇよ」



「だからって普通は言わないよ」



私のコメントはいいのかな?


そう思ってまた天津飯を食べる。


そんなに顔に出てた?


鏡を見てないから自分の顔なんて確認できないし。



「で?可愛いって言われた感想は?」



あっ、駄目だったらしい。



「ありがとう」



「………………それだけかよ。そこでニコッと微笑みとかしろよ。そしたら、可愛がってやったのに」



「亜紀君。熱湯、顔にぶっかけられたい?」



「遠慮します」



今日は賑やかだな。


亜紀がいると会話がポンポン出てくるから。


頭の中にたくさんの言葉が入ってくるから忙しい。


夕食が終わりお風呂に入って自分の部屋に戻った。


私の部屋には3匹の猫が戯れている。


ケイも友達に会えて嬉しいみたい。


今日は亜紀の所為でコンテストの試作品作りが出来なかった。


突然来るんだから。



「凛」



亜紀はノックもしないでズカズカと部屋の中に入って来た。



「何?」



「俺、これから仕事なんだ。2匹のことよろしくな」



「分かった。いってらっしゃい」



「………………」



ん?


亜紀?


なんか、固まってる。



「それ、もう一回言って」



「何が?」



「いってらっしゃいって」



「………………いってらっしゃい」



「………………おう。行って来ます」



満足した様子で亜紀は部屋から出て行った。


なんだ、あの顔は。


にやけてた。


珍しい顔だった。


あんな顔、するのか………………



「にゃー」



足元にムーンが近寄って来た。


するとレインとケイも同じように近寄って来る。



「何?遊びたいの?」



私がおもちゃを取り出すと3匹はおもちゃに猫パンチを繰り出す。


可愛すぎる。


思わずたくさん写真を撮りまくってしまった。

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