第49話

海がいるであろう正面入り口まで歩いていると、後ろから先程の女がまた来ているのが分かった。


まだ、話すことがあるのか。


よくそんなにたくさん話すことがある。


別なことに使えばいいのに。



「あなたのことなんか何とも思ってないから。日向君は私だけを見ているの。抱きしめてくれるの」



そうですか。


それは良かったですね。


あなただけを見ているらしいけど、それは違う意味で見ているだけだと思うけど。


自分が何をしているのか分かってないし。


犯罪しているって自覚ないみたいだから。



「あなたって冷たいのね。助けを求めている人を助けなかったらしいじゃん。普通は助けるものなんじゃないの?本当に冷たい人」



理由があって助けなかっただけですが?


助けたらその後が面倒でしょ。


アホなこと言わないでほしい。



「同じチームになったからって、自分の意見を押し付けるし。本当に自分勝手。何でこんな子が娘なんだろう。あなたのクラスの人にも聞いたけど、あなた冷めてるって言われてるよ。誠也さんが可哀想。こんな子が自分の娘だなんて。誠也さんに悪いって思わないの?本当に残念。誠也さんも誠也さんだよね」



「ねぇ?」



「な、何?」



私はボサボサ女を見た。



「それ以上喋るならそれなりの責任あるってことでいいの?」



「はぁ?」



「何も考えてないまま喋ってるわけじゃないよね?お前、自分で理解しているから喋ってるよね?そういうことでしょ?」



お前が何を言おうとしたのか分かってるのか?


誰に話をしているのか分かっているのか?


それを言ったことで何が起こるのか分かっているのか?



「嬢ちゃーん!はよーこーい」



ブンブン手を振っている海が入り口前で立っている。



「な、なんだって?自分で理解してる?何言ってんの。分かっているから話してるじゃん。分かってないなら言葉にしてないでしょ!あんたが理解してるの!?何が責任よ!」



うるさい。


黙れ。


優しくしてやってるのに。


海の側まで着いたのはいいが、女は最後まで来た。



「嬢ちゃん。それ、なんな?ワカメちゃんか?」



ワカメ?


………………。


ボサボサの女を見る。


なるほど。


髪型でワカメちゃんか。



「人」



「いや、見れば分かるっちゃ。なぜ、んな女に付き纏われとるん?呪いでも受けたんか?」



「どんな呪いなの?」



「ワカメの呪い?」



いや、だからどんな呪いだよ。



「まぁ、邪魔や。ちょっと、お嬢ちゃん。何なん?何か用事っちゃ?」



「なっ、いや、私はこの子に話をしていただけ。学校の用事で………………」



「ほーう。学校の用事でぇ。その割には大きな声で喋ってたなぁ。そんなん興奮してぇ話することあるん?お兄さん、知りたいわぁ」



あら、ちょっと雰囲気が怪しい。


凄みというか、何とも言えない威圧感。



「なぁ?お嬢ちゃん。嘘言ったらダメっちゃよ。お兄ちゃん、嘘は嫌いや。はよー帰り。遅くなる前になぁ」



海の言葉を聞き女は去って行った。



「嬢ちゃん。のりーな」



「うん」



車に乗り込み少し浅いため息を溢す。


もっと突っ込んだ言い方をされたら黙ってなかった。


海も車に乗り込み発進させる。



「なぁ?嬢ちゃん、ありゃファンクラブやな」



「そうだよ」



「嬢ちゃん、本当に期待を裏切らんなぁ」



期待?



「どんな期待なの?」



「ワカメちゃんが会長や」



「………………あぁ、そう」



あれがファンクラブの会長か。



「自分の外見は気にしないタイプなのかな?」



「いやぁ、変身するっちゃよ。表歩く時はアレなんよ」



変身って………………


戦隊アニメじゃないんだから。



「女は怖いなぁ。化粧で化けるっちゃ。同じ顔かってくらい変わるもんや。化け物や。あぁ、嬢ちゃんはいつもかわええよ」



「そこで私を持ち上げられても嬉しくない」



「あははっ、やっぱり?あの女、嬢ちゃんに特別視しちょる。やっぱ、嬢ちゃんは特別なんね」



「特別になった思えないけど」



「嬢ちゃんはないけど、あっちはあるっちゃよ。ホント困るわぁ。今、忙しくさせとる。もうちょっとやろ。今日、日向休みやったろ?」



まさか、何かしたのか?

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