第48話

次の日のお昼休み。



「椎名さん。大丈夫?ご飯食べないの?」



私は、覚悟してはいたのだがそれなりに落ち込んでいる。



「評価がE。最低評価のE。しかも、クラスの中でEは私達だけ」



「………………なんか、慰められなくてごめん」



「慰められても元気が出ない」



お弁当の蓋を開けるとオムライスだった。



「大塚さん。少し食べる?お父さんが作ったの」



「いいの!?食べる!」



そんなに嬉しい?


特別な料理ではないけど。



「おぉ、冷めてても美味しい!卵の厚みがあるね」



「お母さんが卵を大量に買ったの。それを消費するために厚みがあるオムライスになった、と思う」



「買い物はお母さんの役目なんだね」



「うん。特売日とか見つけてね。お母さんのスマホにはどこがいつ安くなるのかカレンダーに書いてるみたい」



「椎名さんの家族って、なんか庶民的なんだね。ほらっ、テレビに出る人ってそれぞれのイメージあるでしょ?」



「あーっ、そうだね。普通に値引き品とか狙って買うよ。イメージ壊して申し訳ないけど、お父さんだって普通に値引き品買うから」



「いや、安心した。納得したし。椎名さんは金銭感覚しっかりしてるから」



金銭感覚か。


まぁ、麻痺はしてないと思う。



「そういえば、今日は休みだったね」



「誰が?」



「いや、目立つ人だよ。忘れないで」



あぁ、日向のことか。


朝が静かだったからとても穏やかな朝だったな。


いつも聞こえる女の声が聞こえないだけで、こんなに穏やかな日になるなんて。



「今日は静かだね。結果は最悪だったけど」



「結果が見たくないから休んだとか?笑える」



大塚さんはクスクスと笑う。


そんな根性無しではないだろう。


なぜ休みなのか知らないが。


特に気にすることではない。



「あの結果を見たらショックだろうね。あれは記録的だよ。遠藤先生と他の先生のコメントを見たら絶対に落ち込む」



「大塚さん。ここにいるから。言わないで」



「あっ、ごめん」



また、気分が下がってしまったではないか。


ちょっと気が紛れたところだったのに。



「あっ!いたいた。椎名さん、お願い事があるんだけど」



男は私に近寄ってきた。


クラスの人ではない。


誰だ?


とても元気そうな人だな。



「はい。何でしょうか?」



「今日の放課後暇かな?」



「暇ではないです」



そうはっきり言った。


すると、隣で大塚さんが噴き出した。


どうやら笑っているらしい。


肩が震えてるもの。



「えっ?いや、あの、その、椎名さんに用事があってさ」



「今日は無理です。その用事とはここでは聞けませんか?」



「いや………………大丈夫です」



さっきまでの元気さがなくなったのは気の所為だろうか?


男は後ろを向いてどこかに行ってしまった。



「あははっ!!!!」



「なぜ、笑う?」



「椎名さん!最高だよ!!」



何が最高なの?


バシバシと自分の膝を叩きながら笑う大塚さんに若干引き気味な私だった。


その日の放課後。


海が待っている場所に行くために、廊下を歩いていると前から何やら髪がボサボサな女が歩いて来るのが見えた。


前髪で顔がよく見えないほど乱れている。


私はその女の横を通り過ぎようとした時だ。


私の歩くところにその女の足が出たのだ。


でも、私はそれを交わす。


そして、交わすべきではなかったと思った。


女をチラッと見ると前髪の隙間から見えた目の色が怒りでいっぱいだったのだ。


これは、ファンクラブだったか。


大人しく転ぶべきだった。


それで満足するなら喜んで転んであげたのに。



「なんで、あんたが。日向君に声を掛けられたからって………………」



はぁ?



「椎名凛。あんたなんかに。何で、日向君が来なかったのか分かる?分からないよね。だって、私は日向君の全てを知ってるからね。あなたは日向君の何を知ってるの?」



何を知ってるのかと言われても。


最低評価をされた人。


人のこと言えないけどね。



「何?何も言えないの!?そうだよね!!私が日向君の全てを知ってるの。日向君は昨日のことで疲れちゃって休んだの。昨日は日向君に可愛がってもらっちゃった」



これはいつまで聞けばいいのかな?


もう、無視していいだろうか。


満足するまで止まらないだろうし。


私は自己満で話続けている女をその場に残して先に進んだ。

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