第47話

ー ファンクラブ ー


どこかの倉庫のような部屋の壁にはたくさんの写真が貼ってある。


まるで、クロスのように壁を埋め尽くしている。


それを、舐めるように見ている女がいた。



「あぁ、日向君。本当に今日も良かった。ふふっ、今日の写真は永久保存決定」



女はアルバムに写真を貼っていく。


その日にあったことなども書き込み、まるで日記のようだ。



「会長。あの、報告があります」



「何?今、気分がいいのに。嫌なことは聞きたくないけど」



「すみません。でも、さっき日向君に告白していた女を見つけて処罰しておきました」



「その女は何か持っていた?日向君のもの」



「いいえ」



「そう。会員に入るって?」



「入らないそうです。なので、それなりの対処をしておきました。あと、その女が逃げたところにたまたま椎名凛がいました」



「椎名凛?あの女がいたの?それで?」



「女が助けを求めたのですが、その助けを無視して帰って行きました。こちらに対しては何も聞かずに。関わりたくないみたいでした」



「そう。日向君から声を掛けられる椎名凛。彼女がいると日向君はなぜか声を掛ける。私に、私には声を掛けてくれないのに!!なんで!?私は日向君のために毎日毎日行動してるのに!!!渡さないから。あんな女に日向君は渡さないから!!こっちは中学からずっと見てるの!!日向君のことなら何でも知ってる!!」



女は座っていた椅子を床に叩き落とした。


そして、机の引き出しから何かを取り出しスイッチを入れる。


すると、ビジジッと鈍い光が走った。



「これで、分からせてあげたほうがいいかな?毎日、おはようって言える楽しみを奪う女はいらない。日向君の家に行ける女は私だけでいいの。私だけを見てくれる日向君でいいの。他の女なんていらない。ねぇ?椎名凛って同じサークルなんだっけ?あなた、サークルに入ってたよね?」



「は、はい。でも、特に椎名凛から近寄ることはないです」



「それでも、日向君から声を掛けてくれるよね?それって、凄く狡いよね?普通は分け合うものでしょ?いや、私だけに声を掛けてくれるでしょ?ねぇ?何で?何で!!あぁ、日向君!!!あぁ、日向君に会いたいな。今、どこにいるの?」



「ファンクラブの会員がカラオケで足止めしてます」



「そう!なら、行くしかないよね。楽しみだな」



クスクスと笑う女は取り出した物を鞄に閉まって倉庫らしい部屋から出た。


向かった先は日向がいるカラオケだった。


部屋に入ると騒いでいた女達が一瞬で静かになった。



「あなた達、もういいから帰って」



女がそう言うと他の女達は何も言わないで出て行った。



「日向君。聞いたよ!大丈夫だった?また告白されたって。迷惑だよね。サークルで忙しいのに呼び出しされちゃって。でも、ちゃんと守れたよ。安心していいからね。ちゃんと、断っておいたから。日向君」



女は日向の隣にしなだれるように座る。


日向はそれを拒否することなくただ座っているだけだ。



「日向君。ねぇ?日向君。日向君。あなたは選ばないよ。だって、私だけだから。理解できるのも私だけ。中学だってそうだったでしょ?大丈夫。私が全てやるからね」



女は日向の腰に手を回して、日向の前に移動する。


勝手に膝の上に乗り日向の首筋に顔を埋めた。


そして、スーッと深呼吸をする。



「日向君。日向君。日向君。日向君。日向君。好き。好き。大好きだよ。好きなの。好きなの!!日向君!!」



防音の部屋で叫ぶ声は割と大きい。


愛を叫ぶにしては狂気じみた感情が剥き出しで荒々しい。



「日向君。最近、多いんだ。日向君を狙う子。何でかな?何で多いのかな?どの子も日向君に優しくされたって言ってたよ。勘違いしてたよ。困った子達だね。大丈夫。私は全部知ってるからね。ねっ?だから………………」



ビジッと何かが女の手元で光った。


そして「ヴッ」と鈍い声が日向から漏れる。



「日向君。日向君。日向君。日向君。分かるよね?日向君」



女は日向の背中に手を回す。


すると、日向の手も女の背中に回した。



「あぁ、日向君」



女は幸せそうに微笑んだ。



ー ファンクラブ end ー

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