第45話

本番当日。


他のチームはそれぞれの役割で作業してると言うのに、私はただボーッと立っているだけだ。


始まったばかりで洗い物もないし、暇すぎて欠伸でもしてしまいそうだ。


日向も女2人も忙しそうにケーキ作りをしている。


流石に本番は真面目に取り組むよね。


本番でもアホなことしてたらクリームをぶっかけてたかもしれない。


何もしていないが、見てはいたから。


何も出来ないわけではない。


先生は何度も何度もこのチームの横を通り過ぎる。


他のチームと比べると絶対に回数が多い。


これは、このチームの危うさを心配しているからだろう。


チラチラと私と3人を見ているが、なんとも言えない表情をしているし。


チームの協力姿勢はゼロ判定だな。


本当はそうならないように協力していかなければならないことだ。


だけど、今回はあまりにも一筋縄では片付かない。


刻々と時間は過ぎて終了のベルがなった。


それぞれのチームの代表者が冷蔵庫に作ったケーキを名札と共に入れる。


あとは、先生達の確認となる。


私は、たくさんの洗い物を1人で片付けて調理場から出た。


お弁当を持って中庭に出ると既に大塚さんが食べていた。



「先に食べてるよ。ごめん」



「いいよ。どうだった?」



「うん。大丈夫。ちゃんと完成させたよ」



「そっか」



「そっちは?」



「出来栄えはそれなり。デザイン画と比べると変更になったところ多々ある」



「良かったじゃん。それなりで」



「まぁ、そうだね」



他はダメだけど。


でも、これであのチームとはおさらばだ。


次のチームでは絶対に日向とあの女2人と一緒にはならないだろう。



「遠藤先生の審査だね。凄くドキドキしてる。絶対に減点されるだろうね」



「大塚さん。減点になるかもしれないけど、マイナスにはならないでしょ。私達のところはマイナスになるかもしれない」



「いや、マイナスはないでしょ。マイナスじゃなくて0点だよ」



「気分はマイナスだから」



最低評価になりそうだ。


これが、後で響かないといいけど。


他で挽回するしかない。



「そう言えば、次の授業でマフィン作るらしいよ。今度は1人だから良かったね」



「私、1人がいいかも。チームは拒否する」



「今回はたまたま。次回はきっと大丈夫だよ。まぁ、あの調子だと先生も凄く悩むと思うけど。女だらけのチームにするわけにも男だらけのチームにするわけにもいかないみたいだし」



「アレと組まないならいい」



「なんか、お疲れ様でした」



いや、本当に疲れたよ。


最初でコレだもんね。


次回はちゃんと協力できるように頑張らないと。


今回はダメだったが、次回は必ず………………


午後の授業も終わり、いつものようにサークル行って帰ろうと短大を出て歩道を歩いている時だ。


細い道から何やら揉めている声が聞こえる。


とても小さい声だから、少し離れているのだろう。


………………。


私は、それを無視した。


このパターンは絶対に見てはいけないものだ。


私は歩く速度を落とすことなくそのまま通り過ぎた。


だが、それは突然やってきた。


何かの気配を感じて咄嗟にそれを避けてしまったのだ。


すると、ズザッと目の前で誰かが転んだを見た。


これは、避けて良かったのかな?


転んだ人は女だ。


膝や手からは血が流れている。


そして、頬は真っ赤になっていた。


口元も切れているのは血が流れている。


これは、大変な場面を見てしまったか?


あぁ、本当にやめてほしい。



「あっ!いたいた!こっちにいたよ!」



私の後ろから複数の足音が聞こえた。


振り返って見ていると女が3人。


その後ろではゆっくりこちらに歩いて来る女と日向の姿があった。


日向は隣にいる女に引っ張られながら歩いているようだ。


これは一体に何?



「ちょっと、急に逃げないでしょ。別に怖いことしようとしてないし。勘違いしないでよね!」



女の中に1人が喋り出した。



「た、助けて!」



私の近くで転んだままの女が私に向かって助けを呼ぶ。


助けてって言われてもねぇ。


どう見てもファンクラブの人達に狙われてるでしょ?


そんな面倒なことに巻き込まれても困るし。


あなたを助けることで得られるメリットが私にはない。


デメリットしかないじゃない。



「ちょっと!なんで助けてなんて言うの!私達、何もしてないじゃん。ただ、仲良くしようって言ってるだけなのに」



いやぁ、この状況でソレは無理があるよ。


転んだ女をよく見てみなよ。


よーく。


お前らは馬鹿なのか?


まぁ、こんなのに付き合っていられない。


私はこの場から立ち去るために、前を向いて歩き出した。



「お願い!助けて!助けて!」



………………。


そんな必死に言わなくてもいいと思う。


………………。


………………。


は〜ぁ。

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