第44話

何が楽しくてこんなチームと一緒にケーキ作りをしているのだろうか。


これが授業でなければ出て行っていただろう。



「日向君。このクリームどうかな?このくらいでいい?」



「日向君。これはちょっと甘すぎる?」



日向の両隣に立ちながら、アレコレと聞きまくる女共。


それを、「うん」「やり直し」「いいよ」とかで終わらす日向。


短い言葉でこの女達は理解しているのだろうか?


いや、していないだろうな。


何度も作り直されているのだから。


理解していたら終わっているはずだ。


私は、シンクの中に水を溜めてボールや鍋などを洗っている。


それしか出来ないのだ。


私はこの3人の召使いか何かなのだろうか?



「椎名さん。これも洗っておいてね。あぁ、あとこの失敗したやつ捨てて」



「椎名さん。これも洗って。早くしてよ。作り直さないといけないの」



この女達の命令を大人しく聞いている私って偉いと思う。


チラッと日向を見ると苺ムースを確認しているところだった。


一口食べてみて何かを考えるように動作が止まる。


それなのに、この馬鹿な女2人は考えている日向に声を掛けるのだ。


邪魔してるとしか思えない。


日向はそんな2人を叱ることもせず、苺のムースをじっと見ている。


これって、完成するのだろうか。


最終調整なのに。


午後はずっとこの授業が続くが………………


終わるか?



「椎名さーん。生クリーム取って」



「私の分もお願いね!」



「はい」



冷蔵庫から生クリームを取り出す。


それを女2人に渡した。



「ごめんなさい。私、ちょっと外してもいい?」



他のチームは休み時間をしっかり取っているのだが、このチームはずっと立ちっぱだ。


ずっと洗い物ばかりしてるのも意外と疲れる。


私がいなくても問題ないだろうし。



「いいよ。別に」



「うん!休んできてよ!」



私がいなくなるのが嬉しいのだろう。


2人の笑顔が凄くキラキラしている。


日向は私の言葉など聞いていないのか、完全に無視だった。


まぁ、許可がなくとも出ちゃうけどね。


調理場から出て近くのベンチに座る。



「あれ?休憩?」



「うん」



大塚さんがペットボトルを持って立っていた。


何か飲み物を買いに行ったのだろう。



「なんか、見てて可哀想になってきたよ。大丈夫?ずっと洗ってるよね」



「あぁ、うん。そうだね。大塚さんのチームはどう?」



「問題はないかな。あとは作業を確認して終わり。ケーキは完成してるから」



「そっか。それは凄いね」



こっちはケーキが完成していない。


作業の確認なんて出来ないだろうな。



「作業の役割も点数に入るのに。大丈夫なの?」



「捨てた」



「………………まぁ、うん。先生も凄く心配そうに見てるから。組み合わせのこと後悔してるかもね」



「何もかも遅い。日向は男だけで固めるべきではないだろうか」



「次回はそうすると思う。そろそろ、休憩時間終わりだけど」



「そうだね。少しの休憩が終わりだね。本当に少しだった」



「………………病んでる?」



大塚さんがそう見えるなら病んでるのかもしれない。


それから、調理場に戻ったのはいいがいつもと変わらない時間となった。


私、洗い物なら早く終わらす自信あるよ。


何かの修行みたいに洗っていたからね。


放課後、サークルの時間になり和菓子コンテストに集中する。


もう、あの資料室には行かないことにした。


また、巻き込まれたら大変だ。



「椎名さん。どう?進んでる?」



声を掛けてきたのは橋本先輩だ。



「はい」



橋本先輩は、私が書いたデザインを見る。



「なかなかいいじゃん。色狙い?」



「綺麗な色になるか分かりませんが」



「そうだね。これは苦労しそうだ」



お父さんにも言われた。


私のデザインを盗み見した時に「本当にやるの?」って言われた。


やると決めたのだ。


やるしかない。


時間もないし。



「まぁ、頑張れ。次のコンテストも出てきたから。休憩時間に見てね」



「はい」



次から次へとコンテストが出てるらしい。


早く形にして次のコンテストを探さねば。


なんだか、授業よりこっちがメインになっているような気もする。


………………。


それって、マズイよね。

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