第41話

日曜日。


本屋に用事があり、久しぶりに1人で出かけた。


まだ、1人で運転出来ないため電車とバスに乗って本屋まで向かう。


帰りにチーズケーキでも買って帰ろうかな。


本屋の近くにあるケーキ屋さんのチーズケーキが凄く美味しいって評判だし。


本屋に着くとスイーツの本を探す。


家にある本だけでは足りないのだ。


お父さんもたくさんの本を読んだと言っていた。


そして、たくさん作ったとも言っていた。


難しいものでも何度も作り直せば上達するものだとも。


スイーツの本は簡単なものから難しいものまでたくさんある。


お小遣いの範囲で買えるものにしなければならないし。


たくさんは買えないからなぁ。



「椎名さん?」



えっ?


私のことを呼ぶ声が聞こえた振り向くと日向がいた。



「あなた、なぜこっちにいるの?こっちに住んでいたっけ?」



「住んでない。父親がこっちで仕事してるから。その付き添いだよ。ホテルで仕事してるけど、俺は暇だから本屋に来ただけ」



そういえば、ここの近くには大きなホテルあったな。


そこのホテルには1階にレストランがあったはず。



「へ〜ぇ。そう」



「椎名さんは、ここの近くに住んでるの?」



「違う」



コイツ、あんなことがあったのに普通に話すのか。


まぁ、私も似たようなものか。



「どんな本を探してるの?」



「スイーツの本」



「具体的だと?」



「いろいろ見てるだけだから。内容までは決めてない」



「そっか。オススメあるよ………………これとか」



日向は本棚から1冊の本を取り出す。



「これとかいいよ。ちょっと高いけど」



どうやらスイーツの写真集のようだ。


世界中の代表的なスイーツを集めた写真集。


凄く分厚くて確かに値段もいい。


パラパラと中身を捲ると作り方も記載されている。


ただ、専門的な内容が多くすぐに作れるものではない。


でも、勉強にはなるはずだ。



「この写真集はシリーズ化されてる。全シリーズ集めるのは大変だけど。これ、凄く使えるよ」



シリーズ化されてるのか。


本棚を見ると確かに、同じような写真集があった。



「ありがとう」



「うん。椎名さん、これから暇?」



「寄るところがあるから」



チーズケーキを買いに行くのだ。


暇ではない。



「そっか。一緒にご飯どうかなって思ったんだけど。父親がこの近くのレストラン勧めてくれたから。そこのハンバーグが凄く美味しいって。あと、ロールケーキも。父親と共同制作したロールケーキなんだ」



「そう。忙しそうだね」



「椎名さんの父親も同じだと思うけど。いろいろ共同でやってるでしょ」



だから、あまり聞かないの。


話さないし。


お母さんだけだ。


仕事も話をたくさんするの。


そして、マネキンの私。


本を持って会計を済ませる。


このシリーズを揃えるためには、お小遣いの使い方をしっかり考えないとダメだな。


本屋から出てチーズケーキのお店まで歩く。


なぜか、私の隣を歩いている日向の存在が気になるところだ。



「ねぇ?なぜ、一緒に来るの?」



「椎名さんの休日の過ごし方が凄く気になる。いつも何してるの?」



「特に何も」



あまり一緒にいたくないのだが。


日向のファンがどこかで見ているかもしれないし。



「何もしてないの?ボケッとしてるだけ?」



「………………本を読んだり、猫と遊んだり、課題をしたり」



「友達と遊んだりは?」



「たまに」



「どんなことするの?」



なぜ、そんなことを聞くの?



「普通なこと。買い物したりご飯食べたり」



「へ〜ぇ。普通だね」



特別なことなんてしないから。


日向はどうなのだろうか?


友達と特別なことするの?


………………。


コイツ友達いるのか?


聞かないでおこう。


聞いてはいけないことだな。



「あれぇ?浮気か?お前なぁ、そんなに男好きだったか?俺がいるだろ。俺が。俺を誘え。いつもいつも」



馬鹿なことを言う奴が目の前に来た。


綺麗な素顔が丸出しですが。


もう、隠すことやめたのね。



「亜紀。馬鹿なこと言わないで。何か頼まれたの?」



「おつかいじゃねぇよ。私用だ。猫缶が無くなった。ムーンがいつもの猫缶じゃないと食わんと駄々こねた」



「人間の子供じゃないんだから」



「いや、ニャーニャーうるさくてな。駄々っ子だろ。あれは立派な駄々っ子だ。でぇ?お前は何してんだ?男連れで」



説明するの面倒だな。


チラッと日向を見ると急に現れた亜紀に驚いているようだ。


顔と言葉遣いが全く合ってないしなぁ。

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