第40話

それにしても、日向は本当に動かない。


壁に背を向けて黙って聞いているだけだ。


一方的に言われたままで、聞いているのか聞いていないのか微妙なところだ。


頭の中で違うことでも考えているのだろうか。



『日向君。ねぇ?写真撮らせてくれないかな?』



『私達で全部するから。日向君はただ立っているだけでいいよ』



そういう女達は、日向にゆっくり近づき手を伸ばす。


写真を撮るだけなのに手を伸ばすの?


抱き着いて写真でも撮るのかと思ったが、どうやらそういうことではないらしい。


日向のシャツを捲り上げ、パシャパシャと写真を撮っていた。


変態の領域ってどこまでだっけ?


あれは領域内か?



『きゃーっ、日向君の腹筋触っちゃった!』



『早く会長に写真を送らないと!催促の電話が来るよ!』



『分かってる。上半身裸になってもらいなさいって言ってたよね?』



『うん。脱がしてあげて』



これは、長引くかな?


………………。


スマホで時間を見ると、そろそろバスの時間だ。


これはマズイな。


でもなぁ、アレだからなぁ。


日向も抵抗する感じもしないし。


終わるのを待つつもりのようだ。


抵抗しないのをいいことに、女達は日向の服をシャツを脱がす。


上半身裸になったところで、パシャパシャとうるさいカメラの音が鳴り続く。


連写するほどのことだろうか?



『写真はこのくらいでよくない?』



『そうだね。このくらい撮れば会長も満足するでしょ』



『だよね!んじゃ、あとは………………』



『日向君。ごめんね。寒いけどあと少し我慢して』



女達は写真を撮るのをやめると、今度は日向の身体を触り出した。



『あぁ、日向君日向君日向君日向君日向君日向君日向君』



『好き好き好き好き好き好き好き好き好き』



なかなか、いい壊れ具合だ。


でも、裏の女と比べるとやはりねっとりな感じが少ない。


やっぱり表の女だな。


狙った獲物を狩る時の裏の女の目はもっとギラギラしていた。


女達はクンクンと日向の首筋付近で匂いを嗅いだり、お腹周りを撫で回したり、ズボンの中に手を入れたりとやりたい放題。


だが、それでも日向は抵抗しなかった。


これは、なかなか手強いな。


ここまでされても抵抗しないのか。


最後までヤられてしまうのでは?と思ったがどうやら違うらしい。


女達は散々触りまくったあとは満足したのか、脱がした服を日向に着させてから資料室から出て行った。


何やら、決まり事でもあるのかもしれない。


日向を見るとズルズルとその場に座り込む。


我慢してた?


20分経っても30分経ってもそこから動くつもりはないらしい。


女達も戻って来る気配がないから、そっちの心配は大丈夫だと思うけど。


日向が動いてくれないと帰れない。


出来ればいなくなってから最後に出て行きたかった。


バスの時間、間に合わないな


………………。


次のバスは1時間後だっけ。


日向が出て行くを待つこと1時間。


ダメだ。


全く動かない。


もしかして、眠ってるのか?


それはいくら何でも………………


2本も逃したぞ。


帰りの時間を考えると9時過ぎる。


………………。


しょうがない。


何事もなかったように去るか。


そうと決まれば行動は早い。


死角から出て出口に向かって歩く。


すると、私の存在の気づいた日向がびっくりした顔で私を見た。



「椎名さん。いたの?」



声を掛けないでくれ。



「いた」



「そっか。気付かなかった」



「そうみたいだね。確認しなかったあの人達が悪いけど。さよなら」



そう言ってドアノブに手を伸ばす。



「さよなら」



小さい声でそう言った日向の声が聞こえた。


その声と同時にドアを開き廊下に出た。


最後に閉じられたドアを見る。


本当に馬鹿な奴だ。


何を抱え込んでいるのか知らないが。


ああなる前に、行動しておけば良かっただろうに。


あれは、1人でどうこうなるものではないな。


海の言っていた通りだった。


本当に組織化された犯行は厄介な事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る