第35話
外観も高級な感じはしたが、中も裏切らない内装だ。
真ん中が吹き抜けになっており、ロビーの真ん中には噴水がある。
映画のセットみたいだな。
海外のホテルのような。
さて、私はどうすればいいのか。
スマホを取り出してお父さんに電話しようと指を滑らせる。
「凛。着いたんだね」
「あっ、お父さんいたんだ」
電話をする前にお父さんが見つけてくれた。
「入って来たの見てたからね。レストランは最上階なんだ」
「お母さんは?」
「先に行ってるよ」
お父さんに案内されて最上階に向かう。
「ねぇ?なんで急に外食?」
「うん?今日、ここのホテルのレストランで仕事してたの。で、ご夕食はこちらでいかがですかって誘われただけ。ここのレストランは凄く人気なんだよ。予約制でね」
なるほど。
お父さんの仕事関係か。
「ラッキーな日だよ。キャンセルが出たんだって。しかも、窓側だよ。夜景も見れるし。いい場所だよね」
「そっか。それはいい場所だね」
さっきまでの気分も少々良くなったかもしれない。
レストランの入り口で待っていたのはお母さんだった。
スーツ姿だったので仕事から真っ直ぐ来たのかもしれない。
「ごめんねぇ。びっくりしたでしょ?急にこんなところに来ちゃって。誠也からここのレストランのキャンセル分が出たって聞いたから、急いでお願いしちゃったの」
「うん。大丈夫。ここ凄く人気だってお父さんから聞いたよ」
「そうなの。凄く人気なの!料理も最高なんだけど、店内も最高だからね。んじゃ、入りましょうかね」
内装?
料理だけじゃなくて内装にも関心が高いってことか。
「椎名様。お席までご案内致します。どうぞ、こちらに」
入り口にいた店員が席まで案内してくれた。
「わぁ、凄くいい場所。キャンセル分がこんないい場所なんて」
大きな窓から見える景色は絵画のような感覚だ。
これは、計算された作りなのだろう。
2段のステップフロアになっているため、目線もそんなに気にならないし。
どのフロアにいても夜景が見えるようになっているようだ。
だが、窓が近いほうがやっぱり一番綺麗だ。
このテーブル席も普通の長方形のテーブルとどこにでもある椅子とかではない。
滑らかな曲線のデザインで色合いも落ち着いている。
また、通路側の壁が高く窓に向かって壁が低くなっている半個室で会話も楽しむことができるように仕様だ。
なんだか、包まれているような場所だな。
壁も曲線になっているから、そんな感じに思えるのかな?
「癒しだわ。やっぱり、たまにはこんな場所に来ないとね。いいデザインが浮かびそう」
「それは良かったね。俺に感謝して欲しいな。ここで仕事してたからねぇ」
「そういえば、どんな仕事頼まれたの?何か監修?」
「そんなところ」
2人の会話を聞きながら夜景を見続ける。
「凛。今日の学校どうだったの?」
「今日は………………揉めた」
「えっ!?」
お母さんは目を見開いた。
「何?何かあったの?」
お母さんが驚いている横でお父さんは冷静に聞いてくる。
真逆な反応だな。
「今、チームを組んでケーキ作りをしているところなの。そこで、ちょっとね。日向とその取り巻き2人とチームになったんだけど………………」
「あぁ、なんとなく分かった。進まないんでしょ?それで、凛が強引に進めちゃったとか?」
「うん。日向はそれが気に入らないらしい。でも、彼じゃないとどうにも進まないから。彼を班長にしたら進んだよ。無理矢理動いてもらうしかないと思って」
「なるほどねぇ。あの子か。アレはなかなか腰が重いからね。本当に。やる気があるのかやる気がないのか。でも、彼はちゃんと料理関係好きだよ。そこは間違いないけどね」
そうなんだ。
好きなのね。
でも、動かないのは駄目でしょ。
「人間関係ってことね。それは難しい。うるさく言うと気分悪くなるし。でも、何も言わないのも」
お母さんは解決策でも考えているのか、難しい顔をしている。
「それにしても、なんで彼とチームになっちゃったのかな。面倒なことだね」
お父さんはなんだか残念そうに言った。
私もなんでって思う。
でも、先生が決めたことだからな。
「いっその事、日向が入院しくれたらこんなに悩まないのに」
「凛、そんな怖いこと言わないでねぇ。お母さん、そんなこと言って欲しくないなぁ。でも、確かに男女関係問題は嫌かも。どっちか拒否してくれたらいいのに」
どっちも拒否はしないと思うけど。
余程のことがない限り、日向からは離れないだろう。
余程のことか………………
海の情報を待つしかないか。
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