第32話

「いいか?喜一の強みは繋がりだ。それなりの人間関係を築いてる。つまり、自分を守ってくれる奴らがたくさんいるってことだ。だから、今まで大きな怪我もしなかったんだ。懐中するのが手慣れてる。どんな狂気的な男でも、喜一の前では普通の男になっちまうだろうな」



裏の貴族という輩も喜一の繋がりが役に立ったし。


喜一の人間関係は複雑すぎるのかもしれない。



「自分の部下を直接動かさないで、他の奴らに動かすのが当たり前だからな。失敗したら、そいつらの単独行動ってすればいいし。切り捨てることも簡単だろ」



「そんな人と柚月が対立してるのね」



「喜一が本気で柚月を躾けるなら、どんなこと考える?効果的なことを考えるだろ?」



「例えば?」



「ここにいるだろ。効果的になり得る存在が。凛は柚月を刺激させる道具として使うかもしれない。喜一にとってお前は道具だよ。柚月がお前のことマジでどう思っているのか知らないが、そこら辺にいる女と同じとは認識してねぇだろ。喜一が確信する何かを得たら動くだろうな」



「………………」



「ただ、お前には強い味方がいるからな。簡単には手出し出来ないだろうが、強いお友達に依頼されると厄介だ」



「可能性の話なのね。私の知らないところで巻き込まれるの嫌なのに。それに、そういう状況が一番困る。対策も困る。知らない人に声をかけられたらすぐに逃げましょう、とかのレベルじゃないし。護身術もどこまで使えるのか分からないでしょ?」



「まぁ、そうなるな。ただ、警戒していないよりはマシだろ。凛のパパさんは詳しく説明するつもりないだろうが。ヤクザエプロン野郎は、必要な情報は話せって言ってる。俺も、必要な情報は伝えるべきだって思ってる。だから、話したんだ。どうだ?状況が変わったろ?」



「まぁ、そうね」



きっと、裏から離したかったのだろう。


だから、お父さんは私に話さなかった。



「裏の全てが刺激されるわけでもねぇし。全部を秘密には出来ねぇだろ。お前が巻き込まれてからじゃ遅いしな」



「亜紀、ありがと」



「………………おう」



「柚月の話はこれで終わりにして、あなたの話はどうなの?留学の準備は?」



「まぁ、問題はないな。裏関係が忙しいが」



「そう。それは良かった」



「落ち着いたらどっか行くか?」



「どっかってどこ?」



「あーっ、どこだ?」



「………………」



急に言われても何も思い浮かばないよ。


どこかに行きたいところか。



「真理亜も誘ってお泊まりは?前に行ったみたいに」



「おいおい。家族旅行とか最悪だぞ」



「家族旅行とは言ってないよ。真理亜も行けば雪も一緒だと思うけど」



「………………普通は2人だけとかなんだけどなぁ」



「それは、何か感じたからパス」



「チッ」



泊まりは無理でも遊園地とか行きたいかな。


日帰りで行けるとこでもいい。


また、みんなで遊べたらそれだけで楽しそうだから。



「あのポチ野郎は、相変わらずなのか?付き纏い」



「ポチ野郎って、犬扱いから離れてあげて。真理亜のストーカーに昇格したよ」



「お前も酷いこと言ってぞ。ストーカーの昇格ってなんだよ。どんな段階だよ」



「待ち伏せとかされてるらしい」



「マジか?おいおい、必死だな!ポチ野郎から狼男になるのも時間の問題か?あーっ、でもおっかない守護者がいるからなぁ。あっちはどうなってんだか。そこまでは知らないからなぁ。もしかして、ドロドロな展開になってるのか?マジか?それは楽しそうだな」



いや、ドラマの見過ぎだから。


ドロドロな展開って何?



「あーっ、一昨日だっけかな?風間に会ったぞ」



「ふーん。元気だった?」



「そうだな。周りに女がたくさんいた。白井のことは諦めた………………ような、ないような。まぁ、変わらん。それなり、表を楽しんでるようだぞ」



微妙だな。


表を楽しんでるって、普通の楽しみ方じゃないような感じがするのは気のせいだろうか?


………………。


風間のことは深く考えないでおこう。


それから、なんとも普通の会話が続く。


暗い話は最初だけだった。


本当は、ずっと暗い話なんてしたくないのだが、これから先のことを考えるとまだ続くかもしれない。

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