第30話

次の日。


予想通りの反応だった。



「あれは誰?なんなの?一体どういうこと?」



大塚さんは知りたいという感情を丸出しにして聞いてくる。


そして、昨日いた男達もなぜかいる。


現在、中庭でご飯を食べている。


今日のお弁当はハンバーグ。


しかも、お父さん担当だ。


ハンバーグの中にはチーズが入って贅沢感。



「あれは誰と言われても。高校の時の知り合い。クラスが一緒だったの。3年は別だったけど」



「彼氏とかじゃないの?元彼とかじゃ?」



「違う」



「でも、連れて行かれたでしょ。結構、強引に」



「びっくりしたよね。ごめんね。私もびっくりしたよ」



「仲良いの?」



「普通」



「普通なの?」



「普通」



「普通であれなの?」



「………………普通」



「………………」



だって、説明するの大変だし。


なんとも言えない関係だし。



「椎名さん。あれを普通とは言えないと思うよ。無理があるよ」



「なら、好きって言っていた人」



そんな言葉を聞きたいのでしょ?



「………………はぁ!?」



嘘ではない。



「それで!?どうなったの?」



「付き合ってない」



「なるほど。なら、今でも求愛中なのか」



「いや、そういうわけではない」



「………………可哀想に」



なんだろう。


哀れみの目を向けられている。


そんな目で見られてもな。



「あっ、お礼言っておいてくれない?みんなの分、支払ってくれたから」



「次、会えるか分からないけど。その時に伝えておく」



多分、その時になると忘れていると思うけど。



「ねぇ?椎名さん。昨日の彼って大企業の次男じゃない?」



黙っていた日向が喋り出した。


今日は周りに取り巻きはいない。


なぜなのか気になったが、うるさい奴らがいないのが嬉しい。



「知ってるの?」



「見たことある。主催のパーティーに行ったことあるから」



あぁ、そういうことか。



「そう」



「顔だけ出してすぐにいなくなったけど。忙しそうに車に乗り込んでどっか行ったけどね。次男は会社に興味ないみたい。そのパーティーの招待客はどれもかなり有名な人ばかりだったから。その人達とは会話もしないで出て行った」



興味はないだろうな。


頭の中は違うことを考えてそうだ。


それに、裏にいるのだから。


表は長男がしっかり見ているはずだし。



「そう」



あまり深く突っ込まれるのは嫌だなって思っているとお昼休みの時間が終わった。


放課後、サークルに向かう。


和菓子の本を手当たり次第に読み漁り、どんなものがいいのか考える。


まずは、小豆を使う和菓子にするのかそれとも違う材料で作るか。


若者でも喜びそうな和菓子とか?


パラパラと本を眺める。


………………。


いちご大福か………………


別にいちごじゃなくても。


フルーツ大福とか?


メロン大福。


いや、やめておこうかな。


みかん大福は?


ありそうだな。


だけど、色々入れてみるのはいいか。


どれが合うのか確かめる必要があるけど。


よし、大福で行くか。


食材の買い込みが必要だな。



「椎名さん。どう?そろそろどんなのにするか決まった?」



橋本先輩が声をかけてきた。



「具体的な内容はまだですけど」



「そっか。なら良かった。たくさん資料持ってきたら決まってないのかと思って」



「ご心配をおかけして申し訳ございません」



あとは、何回も試作品を作る。


………………。


おやつは大福になるかもね。


バスの時間になり、少々小走りで急いで短大から出た。


間に合わないとかヤバい。


次のバスの時間まで待つのは嫌だし。


あと少しでバス停だというところで右手を強く引っ張られた。


昨日といい今日といい。


何?



「ちょい待て」



「はっ?」



振り返って見ると久しぶりの姿がそこにあった。


昨日、話題になった奴がここにいることに驚いたのか、顔を丸出しにしていることに驚いたのか。


いや、どちらにも驚いたかもしれない。



「ここで待てば会えるって言われた。びっくりしただろ?驚いたか?俺は、かなりドキドキだったぞ。これ、バスに間に合わねぇよなって思ってた。お前、時間は気をつけろよ。乗り遅れるとか最悪じゃん」



「………………」



「おい、何固まっているんだよ。何か言えよ」



「いや、背後から来るの流行りなの?」



「はぁ?」



馬鹿なことを言ってると思う。


でも、何を話せばいいのか分からなくなった。


なぜだろうか。

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