第29話
「お前は本当に裏切らないなぁ。そんな偶然あってたまるか。なんで、その店にいたんだよ。甘いもん食いたいから来たって感じじゃないだろ」
「俺の娘が侵食されてる。これは、駄目なパターンだ。えっ?何?本当になんなの?仕事忙しそうにしてるからこっちはほっといくれるかなって思ったのに」
「誠也。お前は思ってねぇだろ。つーか、分かってただろ。認めたくなかっただけだろ」
「あっ、分かっちゃった?でも、忙しそうにしてるのは本当のことでしょ?睡眠薬飲まないと寝られないくらい追い込んでるようだし。情報通りだね。アレは化け物だ」
「あの爺も驚いてるだろうな」
「自慢してるかもね。俺が作った人形はどうだって」
「人形じゃなくなってるのにな。哀れだ」
「人は簡単に完全に人形にはなれないよ。柚月は確かに素質はある。だけど、その上を飛び越えちゃったからね。怖い怖い。俺なら、道を潰しながら育てたけどね。喜一はそれをしなかった。引退したのが少し早すぎたね」
いや、どんな会話ですか?
でも、怒られることはないか。
私にもどうすることも出来なかったし。
車から飛び降りることなんて出来ないし。
死ぬから。
前の私なら必死に逃げる方法考えたかもしれないけど。
「しっかし、明日は聞かれるだろうな?アレは彼氏なのかって。可哀想に………………」
「光さん。そのニヤニヤ顔はやめて下さい。何も面白くありません。私は楽しさ溢れるおもちゃではないので」
「そんなこと思ってないから。まぁ、頑張れ」
「ところで、なぜここに光さんが?」
やっと聞きたいことが言える。
本当になぜここにいるのだろうか?
仕事の話?
でも、それなら古民家で話すよね?
「あーっ、特に何もない。近くまで来たから寄っただけ」
ジーと光さんを見る。
本当だろうか?
嘘をついてないだろうか?
………………。
絶対、嘘だな。
私から目を逸らしたから。
きっと言えないことなのだろう。
「凛。いつまでそのままでいるの。手を洗ってきなさい。ご飯の時間にするから」
お母さんに言われて一旦リビングから出た。
手を洗ってから荷物を自分の部屋へと移動させる。
そして、またリビングに戻った。
「凛。手伝って」
「うん」
テーブルにお茶碗やお皿を並べる。
今日は豚の生姜焼きらしい。
だけど、2つ分しかない。
「お父さん達はないの?」
「ないよ。お酒飲んでるし。おつまみだけでいいって。全く、身体に悪いのに。ちゃんとご飯食べないと」
いや、おつまみってお父さんが作ったやつでしょ?
ご飯に近いものだと思うけどね。
市販で売られてるイカとかじゃないし。
「では、いただきます」
「いただきます」
ソファーではお父さんと光さんが楽しくお酒を飲み、テーブルでは夕ご飯を食べる私とお母さん。
その距離感が違和感だ。
いや、光さんがいるからか?
「今日の生姜焼きはなかなかいいと思うけど。どう?どう?」
「うん。美味しいよ。お肉が柔らかい」
「でしょ!?テレビでやってたの!仕事先でもやってる人が多くてね」
「へ〜ぇ」
「水族館楽しかった?」
「普通だった。なんか、水族館行ったというよりスイーツ食べに行ったという感じだった。交流をしましょうねってことだったけど、全然交流してないから」
「遠足気分か。まぁ、そんなもんでしょ。で?さっき、柚月がどうのこうの聞こえたんだけどぉ。何それ?」
「………………」
あっ、これはマズイ。
キッチンにいたから油断してた。
「なぁに?拉致でもされちゃったの?邪魔でもされちゃったの?折角、凛が友達で楽しくお茶していたのに。邪魔しやがったのかな?あのボンボン坊ちゃん。ねっ?どうなのかな?」
「いや、まぁ、そうなるのかな?」
「やっぱ、私が出て行くべき?ここは母親の威厳というものを」
「味噌汁美味しい。この漬物も最高だよ。あっ、今度和菓子コンテストに挑戦するんだけどね。アイデアがなかなか思いつかなくて」
「一度、打ち抜いてやるか」
「………………」
何を打ち抜くの?
というか、聞いてないね。
話題を変えてみようかと思ったけど無理だな。
こうなったら大人しく聞くしかないか。
それからお母さんは満足するまで柚月の愚痴を言いまくっていた。
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