第28話
柚月が起きたのは1時間程だ。
起きた柚月は私の上から退いてくれた。
「今日は最悪な日だ」
「俺は最高な日だけどね。凄く眠くて。睡眠って大事だよね」
「私は、あなたの抱き枕じゃない」
「抱き枕になってなんて言ってないよ。さて、そろそろ本当に家まで送ってあげるよ。ちょうどいい時間だね」
柚月はベッドから降りてドアを開けてくれた。
私もベッドから降りて開けてくれたドアから出た。
やはり今日は休みなのか店員の姿はない。
外に出ると車が止まっていた。
ずっと止まっていたのだろうか?
「どうぞ。お乗り下さい。姫様」
「馬鹿なこと言わないで」
「姫様って言えば喜ぶ女もいるのに」
「それは、どこの女?」
「嫉妬してくれてるの?」
「嫉妬なんかしない。なぜ、私があなたに嫉妬しなきゃいけないの?」
「………………まだ、そこまでじゃないか」
馬鹿な奴をほっといて車に乗り込む。
柚月もすぐに乗って車は走り出した。
今度は、ちゃんと私の家に向かって走っているようだ。
ここの道は知っているし。
案外、近場だったか。
「頭が冴えていい感じだよ。今なら何もかも出来そう」
「やってみたら?そして、失敗しろ。そのまま自滅しろ」
「酷いこと言わないでよ。睡眠薬を飲まないで寝たの久しぶりだったから」
「睡眠薬を大量摂取してそのまま永眠しろ」
「………………そこまで言わなくても」
「だって、馬鹿だから。何をしているのか知らないけど、寝られなくなるまで自分を追い込んでるなんて。壊れたら終わりでしょ」
「壊れたりはしないよ。倒れたりはするかもしれないけど。まぁ、倒れる限界はまだ先だから」
そんな限界はいらん。
「ねぇ?」
「何?」
「檜佐木君に最近会ったりした?」
「してないけど。なんで?」
「彼も忙しいのかなって。留学するらしいから。その前にいろいろ片付ける必要あるでしょ?彼も裏の関係者だからね」
「アレの裏は知らない。忙しいのは知ってるけど」
「連絡は?」
連絡………………
そういえば、電話してないなぁ。
真理亜とはよく電話するけど。
亜紀にはしてないな。
………………。
私から電話するのってあまりないから。
「してない」
「へ〜ぇ。してないんだ。ふ〜ん」
何?
何が言いたいの?
「檜佐木君って、凄くカッコイイよね」
「急に何言ってるの?やっぱ、同性愛に目覚めたの?大丈夫?」
「俺、正直に言っただけ。椎名さんはそう思わないの?顔じゃないよ。中身だよ」
「中身?」
亜紀の中身?
カッコイイ中身って何?
「やっぱ、同性愛に目覚めた?」
「俺の家に行くけどいい?」
「それは嫌だ」
「なら、馬鹿なこと言わないでよ。俺、ちゃんと異性対象だよ」
「中身がカッコイイってイメージじゃないから」
「なら、どんなの?」
「アレは………………自由?」
「ほら、カッコイイでしょ」
「………………」
自由ってカッコイイの?
よく分からない。
「椎名さん。着いたよ」
「えっ?」
外を見ると確かに家の前に着いていた。
いつの間に………………
「また、会おうね」
「………………」
「拒否しないんだね?よく分かってる。まぁ、安心はしたかなぁ。椎名さんの様子を見て大丈夫そうだって確認出来たし。問題なさそうだね」
「さよなら」
荷物を掴んで車から降りて、急いで家の中に入った。
逃げるように家の中に入ってしまった。
絶対、車の中で笑ってるはずだ。
それがムカつく。
「凛?そんなところで何してるの?」
「あっ、お母さんただいま」
「うん。おかえり」
玄関先で固まっている私を心配したのかお母さんがリビングから出てきたらしい。
音が気づいたみたいだ。
「あれ?お客さん来てるの?」
「そう。光さん」
「光さん?」
急いで入ったから気づかなかったが、靴を脱ごうとしたときに見慣れない靴に気づいた。
これは、光さんの靴なのか。
というより、光さんがここに来るのは凄く珍しい。
あれ?
初めてか?
蓮さんと愁さんが強烈すぎて………………
リビングに入るとお父さんと光さんがソファーに座ってお酒を飲んでる姿を見た。
「おかえり。凛。今日は少し早かったね」
「よっ、元気そうだな」
光さんは怠そうに片手を振った。
「ただいま。光さんも元気そうですね。今日は柚月に送ってもらったの」
「そっかぁ、柚月に送ってもらったんだぁ………………えっ?えっ!!!!!」
「今、とんでもないことサラッと言ったぞ。おい、お前の娘は麻痺してるのか?」
まぁ、びっくりするよね。
体験した私がびっくりだから。
仕方ないから最初からキッチリ2人に説明した。
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