第27話

車を走らせること2時間ほど。


到着した場所は真っ黒な壁に真っ黒なドアの店。


看板がないため、どんな店なのかわからない。


柚月の案内で店の中に入ると、外観と違って店内は天井も壁も床も白だった。


ただ、家具類は全て黒。


什器には小物などが置かれている。


雑貨屋なのか?



「ねぇ?ここ、何?」



「俺のための店」



はい?


柚月のための店?


それはどんな店ですか?


何?


雑貨屋でも始めたの?


転職したの?


似合わないなぁ。


ニコニコしながら人を殺しているのに、雑貨屋経営とか笑えないから。



「ちょっと、どこまで行くの?」



「2階」



2階?


売り場からバックヤードに入り、そこから階段を上る。


ここまで入って来て、店員がいないことに違和感を感じる。


クローズの看板あったっけ?


そこまで見てなかったな。


2階は広々としていた。


間仕切りがない一部屋。


そこには、なぜかここで生活出来る家具家電が置かれていた。


誰か住んでるの?



「何ここ?まさか、ここって柚月の家とかじゃないよね?」



「残念。違うよ。家に連れて行きたいけど、それはまた今度にするよ。ここは、遊び場って感じかなぁ」



「遊び場?」



あなたの遊びって最低だったはず。



「椎名さん。何か勘違いしてない?表情に出てるよ」



あっ、顔に出てた?



「だって、あなたの遊びは最低だから」



「否定はしないけどね。ここは、そんな遊びしてないよ」



「なら、どんな遊び?」



「気になる?」



………………。


その言い方が嫌だな。



「言わなくていいや。そこまで気にならないから」



「えーっ、気になるって言ってくれないと。変な遊びじゃないのに」



「あなたの遊びは全部おかしいから。で?私をここに連れてきた理由は?まさか、ここで私と一緒に遊ぶとかじゃないでしょ?」



「そうだよって言ったら?」



「帰る」



「冷たいな」



遊ぶつもりないし。



「座ったら?そこのソファーどうぞ」



そう言われてとりあえず座る。


すると、柚月も私の隣に座った。



「近い」



「そう言いながら嫌がらないね」



「………………」



「嫌がらないというより、どうでも良くなったかな?」



これは、確かめているのか?


………………。



「下の雑貨屋も柚月の管轄?」



「そうだね。俺のだよ。一般人向けだからね。海の実家みたいに荒れてないよ。あっ、あそこも東賀さんに弄られちゃって。まぁ、それより前に移していたから問題ないけど。だから、海は堂々と実家に帰ってもいいよ。そこに乗り込んで殺すってことしないから。俺も暇じゃないからね」



「そう」



「海はいいなぁ。椎名さんに会えて。俺より簡単に会えるでしょ?」



「………………」



「幸せものだよね。東賀さんのところで仕事が出来て」



「で?」



「ん?」



「………………何?もう済んだ?終わったなら帰る」



くだらない話をするなら帰りたいのに。


こんなところで呑気におしゃべりするつもりないけど。



「ちょっとは付き合ってもらいたいのにね。困った子だよ」



「困った子で悪かったわね」



ちょっと拗ねた私を見て、クスクスと笑っている。


こっちは何も楽しくない。



「なら、時間もないし。やってもらおうかな」



そう言って私の腕を掴み立ち上がる。


そして、強引に引っ張り部屋の隅に置かれていたベッドに投げ捨てられた。


すぐに身体を起こそうとしたが、柚月が覆い被さってきて身動きが全く取れない。



「ちょ、ちょっと!柚月!」



「………………」



「柚月!」



「………………」



「柚月?」



「………………」



あれ?


なんとか両手で身体をグイッと押す。


何度か押すことで身体の位置がズレて呼吸がしやすくなった。


そこで、改めて柚月を確認する。



「嘘………………寝てる」



寝息が聞こえているし、目を閉じているし………………


これは、完全に寝てる。


これ、どうすればいいの?



「あのぉ?」



悩んでいるところに凄く小さい声が聞こえた。



「申し訳ございませんが、しばらくそうしていただけないでしょうか?よろしくお願いします」



えっ?



「ちょっと待って。それは困るから」



………………。


………………。


………………。


いなくなった?


いや、逃げたか。


柚月の頭を叩いて起こしてやろうか?


そう思って片手を持ち上げた。


でも、それを振り下ろすことはしなかった。


………………。


警戒心なさ過ぎの寝顔なんて見なきゃ良かった。


あぁ、これ、本当にいつ帰れるかな。

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