第25話

男達も私の後ろを見続けている。


私は、なぜか後ろを振り向きたくない気分だ。


振り向くべきか、振り向かないべきか。



「あのぉ、何か?」



大塚さんは恐る恐るといった感じで言った。


かなり、小さい声だったけど。


何かが怖いというより、申し訳ない気持ちが強いのだろう。


だが、こちらの声は聞こえるような声量だった?


あっ………………


大塚さんの顔がどんどん真っ赤になっていくのが分かる。


怒っているから顔を真っ赤にさせているわけではない。


多分、私の後ろにいるであろう人を見て真っ赤になっているだけだ。



「あぁ、ごめんね?知っている人がいたから」



ポンッと私の右肩を軽く叩く誰かの手。


それは一瞬だったけど、身体全体からゾクゾクと感じる何か。


それを感じた瞬間、私の手は勝手に動いた。


空っぽのコーヒーカップを鷲掴みにして後ろにいる奴に投げ付けようとした。



「コラコラ。それは危ないなぁ。こんなことしちゃダメでしょ。椎名さん」



簡単に受け止められてしまい、コーヒーカップを元の場所に戻される。


私は、立ち上がり後ろにいる奴に向き合う。



「やぁ、椎名さん。久しぶりだね。元気そうで良かったよ」



やっぱり、この男だったか。


柚月壱夜。



「そうね。かなり元気だけど」



「そうらしいね。ちょっとは影響するかなって思ったけど。心配なさそうだね」



どうして彼がここにいるのだろうか?



「あっ、今、どうして俺がここにいるのか気になってるでしょ?」



「………………」



「あっ、不機嫌になった」



なんか、やけに機嫌がいい?


ニコニコ、ニコニコ。


何が楽しいのか。


柚月はそのニコニコ顔をやめて大津さん達を見る。


その目には特に何も感じることはない。



「椎名さん。学校は?」



「終わった?」



「なぜ疑問系?」



いや、授業というものを今日はしていないし。


遊びのようなものだったし。


短大に行ってないし。



「まぁ、いいや。これが伝票だよね?………………よし。椎名さん、行くよ。あっ、この子連れて行くから。ここは、俺が払ってあげるね。邪魔しちゃったし。椎名さんのこと貰っちゃうから」



「えっ?」



柚月は伝票と私の荷物を掴み空いている手で私の手を掴む。


そして、そのまま強引に連れ出した。



「柚月!離して」



「今日の俺はかなりついてる。たまにはお使いもいいものだねぇ」



全く聞いてない。


柚月は支払いを済ませて早々にお店から出る。



「逃げないから離して。少し痛いの」



本当に少し痛い。



「椎名さん!!」



後ろから大塚さんの声が聞こえる。


私は歩きながら後ろを振り向く。


そこには大塚さんだけでなく、日向たちもいた。


これは、心配かけてしまっている。



「大塚さん!また明日!」



私は、自由な手で大塚さんに振った。



「はーい。椎名さん。乗ってね」



「ングッ………………」



グイッとお腹に圧迫感を感じるのと同時に背景がグルッと変わる。


いつの間にか車に押し込められてしまったらしい。



「出せ」



柚月はそう言うと車は動き出した。


これは、一歩間違えば拉致のようなものだ。


この男はアホか?


車に乗せてしまえば安心と思ったのか、私の手は自由になっていた。



「柚月。ちょっと謝ってくれない?みんなに説明しなければならないじゃない。明日は絶対に質問攻め」



「ごめんね。ちょっと我慢出来なかった。まさか、こんなところで会えるとは思ってなかったから。早く2人になりたくて」



いや、運転手の人がいるから。


完全に無視の存在なの?


いないもの扱いでいいのだろうか?



「何が早く2人になりたい、なの。そんなこと思ってないでしょう。本当になりたいなら自分のテリトリーに引き込むでしょ?あなたなら」



「よく分かってるね。ちゃんと家まで送るよ」



「どうだか」



「何?俺の家に行きたいならいいよ。あぁ、言っておくけど引っ越したから前の場所じゃないよ」



「………………なぜ、それを私に言うの?そんな簡単に」



「椎名さんだから。何かしようとか思ってるの?」



「そんなこと思ってない」



「でしょ?」



ただ、こうやって話したいだけって感じか。


こっちは楽しいお話なんてするつもりないけど。



「で?新しい居場所はどうなの?楽しい?あぁ、見てたから分かるけど。楽しそうだねぇ。とても美味しそうに食べてたもんねぇ。周りのみんなが見惚れてしまうほどに」



コイツ、いつ来たんだ?

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