第24話
「お待たせ致しました。こちら、試作品のケーキになります」
店員が持ってきたのはミカンが乗っているケーキだった。
層がミカン色だ。
「うわぁ、綺麗な色。一番下はクッキー生地かな?………………うわっ、凄く美味しい!程よい甘さで、苦手な人でも食べられるかも」
食べるのが早いことで。
私も、一口食べる。
ミカンの香りがちゃんとする。
確かにそんなに甘くないし食べやすいかも。
これなら、ホール買いもいいかもしれない。
でも、ちょっと舌触りがざらつく?
表現がなんとも難しい。
滑らかさが足りない?
う〜ん。
みんなの反応を見てみると、何人かは違和感を感じているらしい。
そこら辺は、人それぞれの好みだろう。
「食べ終わったら置いてある紙に感想を書いて。あとで渡すから。正直なこと書いて。これ、試作品だからね」
日向が言った紙というのはコップの横に置いてあるメモ用紙だろう。
そこに、正直に書き込む。
素人な意見で申し訳ないけど。
それに書き込んでいると、シフォンケーキが運ばれてきた。
「美味そう。見ただけで分かる」
「いや、見ただけで分かるとかないから」
隣にいる男達はもう書き終わっているのはシフォンケーキを食べようとしていた。
私も書くのが終わってペンを置く。
大塚さんを見てみると写真を撮っていた。
保存用?
それが終わるとパクッと一口食べる。
すると、一気に表情が緩んだ。
「凄く美味しい。ふわふわ。生クリームも重たくないし。これは人気になるね」
幸せそうな顔ですこと。
私もシフォンケーキを一口食べる。
うわっ!
大塚さんの言った通りだ。
これは………………
「美味しい」
ポツリと呟いた声が意外と大きかった。
それがちょっと恥ずかしい。
「し、椎名さん」
「何?」
大塚さんはなぜかびっくりした顔をしている。
何をそんなに驚くの?
「椎名さんのそんな顔初めて見た。そんな顔するんだね」
「えっ?」
顔?
そんな顔ってどんな顔?
「マジか………………ギャップ萌えってやつか」
隣にいる男が何やら言っている。
いや、萌えられても困るけど。
人の顔をジロジロ見るな。
フォークで目玉刺すぞ。
私のことを見ているのは2人だけではなかった。
日向のその他の人達も見ている。
「椎名さん。君は最高だよ。そして、分かりやすい!本当、美味しかったんだね。分かるよ。その気持ち。私も同じ気持ちだからね。私の半分あげようか?」
「いや、自分のだけでいいから。大塚さんのは自分で食べて。あと、私の表情筋は死んでないからね」
「いやぁ、そこまでは思ってなかったよ」
「そう?それは良かった。なんか、凄くびっくりされたから」
パクッとまた一口食べる。
今度は、普通の顔だ。
それを見た周りの人たちは残念そうな感じだったが、私はジロジロ見られることがなくなったから良かった。
全部食べ終える頃には、お腹も限界だ。
甘い物は別腹でも限界というものはある。
ちょっと休憩するためにコーヒーを飲みながら寛いでいると、大塚さんがどこかをじーと見ていることに気付いた。
「大塚さん?どうかしたの?」
「うん?あぁ、ちょっと。凄いイケメンが来たなぁって………………」
「大塚さんって、イケメンチェックする人なんだね」
「いや!しないから!」
視界に入っちゃった?
「お前、いつもそんなことしてるのかよ。くだらねぇ」
「してないから。そんな暇なことしてない」
「でも、イケメンって言ってただろ」
「たまたま視界に入っただけ!」
「ここにもイケメンがいるだろ。我らの王子様って奴がよ」
「それ、自分で言って虚しくないの?」
「結構地味にくる」
アホか。
まぁ、今のアホな会話は嫌いじゃない。
ちょっと面白い。
「なぁ?日向、お前も言ってやれ。大塚に俺の方がイケメンだって」
今度は日向を巻き込むらしい。
でも、そんなことを言うタイプではないだろう。
というか、周りの男達は笑ってないか?
これは、ふざけてるよね?
「そうだね。俺のほうがイケメンだね」
「言ってくれた!?マジか!?今日は調子いいのか?大丈夫か?頭打ったのか?」
「いや、言えって言ったじゃん」
「マジで言ってくれるとは思わなかった」
日向が乗ってくれたのが、かなり衝撃だったらしく男は驚いていた。
いや、申し訳なさそうにしている。
なんだ、案外まともな奴らと連んでいるのか。
「あーっ、おふざけはここまでにして。大塚の話は俺もそう思うぞ」
「でしょ!?チラッと視界に入っただけなのに。惹く………………」
へ〜ぇ。
あっ、コーヒーなくなっちゃった。
そろそろ、電車の時間だし。
大塚さんに伝えようと大塚さんを見る。
さぁ、言おうとしたとき大塚さんの動きが止まっていることに気づいた。
そして、大塚さんの視線が私の後ろの少し上を見ている。
あっ………………
………………。
気が緩んでる証拠だなぁ。
そんなことを考えてしまう私って冷静だなって思う。
「聞こえてた?」
大塚さんは私の後ろを見続けたまま呟いた。
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