私の居場所⑥

突然背後から気配を感じたら何か仕掛けられると思え

第22話

春の遠足。

それは、義務教育のときしかないものだと思っていた。

短大でもあるんだなぁ。

「椎名さん。何見る？オオサンショウウオとか見る？かなりデカイよ」

なぜ、水族館なのだろうか。

料理関係のところを見るとかじゃないの？

まぁ、近くに水族館があるからっていう理由だけで選ばれたのだろう。

でも、現地集合現地解散ってどうなの？

ここまで来るのって結構大変だったのに。

やっぱ、車が必要だなぁ。

「椎名さん？聞いてる？」

「あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた」

隣にいる大塚さんは水族館のパンフレットを持っている。

そこに、先程のオオサンショウウオでも載っていたのだろう。

「ここの水族館はイルカはいないからね。トドはいるけど。ペンギンもいるね。カピバラも。フラミンゴも」

へ〜ぇ。

イルカがいないってことはショーがないってことか。

「で？何を見る？」

「順番通りに見よう。最初は川魚？」

「そうだね。オオサンショウウオもいるよ」

大塚さんってオオサンショウウオ好きなのかな？

まぁ、あのフニャとした顔がなかなか可愛いと思う。

「椎名さん。メダカがたくさんいるよ」

メダカねぇ。

メダカ見てもウキウキな気分にはならない。

「川の魚って鮎がイメージだけど。鮎って美味しいよね」

「椎名さん。水族館で美味しいはダメでしょ」

「でも、タイとかマグロとか。最高だよ」

「次！次に行こう！」

今日は刺身でも食べたいな。

「椎名さん。終わったら暇？」

「暇かな」

「近くにスイーツのお店があるの。どう？シフォンケーキが凄く美味しいって評判なんだ。お昼もそこでどうかな？スイーツのお店だけどサンドイッチとかもあるから」

「うん。行く」

「よし！なら、早く見て早く行こう」

平日だから水族館はそれなりに空いてるし。

そんなに時間も掛からないだろう。

「そういえば、サークルはどう？歓迎会行ったんでしょ？仲良くなれた？」

「それなりに。先輩たちも親切だよ」

「でも、同じコンテストに出るならライバルだけどねぇ。アドバイスするって言っても自分が不利になるようなこと言わないでしょ」

「蹴落とすみたいな？」

「そこまで激しいものじゃないけど。ライバルが減るのはいいことだよ。まぁ、張り合いになる人がいると競い合っていい方向に向くことがあるけど。私は、ライバルとか苦手なんだよね。焦っちゃうから」

ライバルか。

和菓子コンテストに応募する人は私だけではないし。

「コンテスト選んだの？」

「和菓子コンテスト」

「うわぁ、和菓子か。和菓子ねぇ………………ケーキばかり作ってたから和菓子は無知だ」

「私もそんな感じ。今は、本を読んで勉強してる。本に載っている和菓子を作っても意味ないけど、形は知っておくべきでしょ？」

「そうなるよね。あっ！トドだ」

「まぁ、全然浮かんでないけど。あっ、ペンギンだ」

「期日があると焦るよねぇ。期末試験とは違った焦りだよね。あっ、カピバラだ」

「遠藤先生から締め切りを言われる焦りとは違うよね。あっ………………大きな魚だ」

「ピラクルだよ」

ただ、水族館の中を散歩しているような見方で次々見る。

出口付近にあるお土産も見ないで外に出て、大塚さんの案内でスイーツ屋に向かった。

最近出来たばかりなのか、店内は新しいようだ。

「何食べる？デザートは後でいいよね」

大塚さんからメニューを渡されて中を開く。

スイーツのお店だけあって、圧倒的にスイーツメニューが多い。

「グラタンでいいから。大塚さんは？」

「アサリのクリームパスタ」

それぞれ食べたいものを注文して料理が運ばれてくるのを待つ。

「ねぇ？さっきから気になってること聞いてもいい？」

「何？」

「噂？とか違うけど。歓迎会の日にあの坊ちゃんのこと駅まで送った？」

なぜ、そのこと知っているのだろうか？

日向が喋った？

いや、そんなことするタイプではないか。

橋本さんもそういう人ではないだろう。

だったら、あの女か。

「それ、どんな噂なの？」

「噂っていうか自慢話みたいな？どっかの女子が一緒に帰ったって。その話に椎名さんの名前が出ただけ。日向君からの椎名さんってなかなか聞かないからさ」

黙らせるべきだったか？

………………。

あぁ、黒いな。

「変なこと言ってるわけじゃないから。まぁ、殆ど嘘の自慢話だろうし。あーっ、でも、椎名さんを迎えに来ていた男の人がなかなかいい男だったって言ってたけど」

「ビッチ？」

「あははっ！！！そうかもね！」

いや、どこに笑うところあった？