第19話
トレードマークだった金髪が真っ黒に染められ、黒のスーツ姿が私服へとチェンジされてしまったのだが、この男のヤバそうな雰囲気はイメチェンしても全て簡単には隠れないらしい。
黙って立っているだけでも、どこか「あれ」な感じが出てしまっている。
だが、喋ると「あれ」な感じが弱まる。
なんとも不思議だ。
まぁ、髪も服装もお母さんが徹底的にしばき倒し………………教えたことにより身なりは年齢に合う感じに仕上がっている。
言葉遣いまでは直せなかったみたいだが。
お父さんもそこまで直そうとは思っていないらしいし。
お父さんが海を捨て猫のように拾ったと言った時は、何を言っているのか理解できなかった。
それは、光さん達も同じだったらしくかなり揉めたらしい。
だが、そこは何度も話し合って………………ちょっと、いや、それなりに喧嘩もしながら海のことを拾うことにした。
『捨ててこい』『ちゃんと育てるから』『拾った場所に置いてきなさい』『面倒見るから』
動物扱いですか?
あの、柚月の隣にいた人ですけど?
しかも、原因になった人ですけど?
お父さんはお母さんにキッチリ話をした。
まぁ、話したところまではいい。
そこからのお母さんの怒り方が本当にヤバかった。
お父さんの頬に往復ビンタだ。
あまりの怖さに私は見てるだけだった。
母強し。
海とご対面したときのお母さんは、どこでそんなの習ったのか知らないけど綺麗な鳩尾膝蹴りを繰り出していた。
母強い………………怖過ぎる。
その場には光さんたちもいたのだが、全員が硬直していたのを覚えている。
未だに利用価値があるのかないのかよく分からないけど、お父さんは近くに置いているようだ。
「ほな、のりーな。お家まで送ってやるっちゃ」
紳士的な行動のように後部座席のドアを開ける。
「い、いや!そんなの悪いです!すぐですから!電車ですぐ!」
「遠慮しなーで。危ないんよ?若いもんは遅くに歩くもんやない!ここは都会と違って街灯も少ないし。暗闇のところを狙ってグワッとヤルからなぁ。これがなかなか成功率が高いんよ。分かるん?プロは後ろから気配を絶って歩くんよ。これが、かなり上手いもんで。相手が襲われるまで分からん。本当に上手でなぁ。スリとかの常習犯ともなかなかだっちゃ。やっぱ、消すのが上手いんよ」
いや、なんつーこと言っているの。
ギリギリか?
いや、アウトか?
「橋本さん。この馬鹿が言ってることは言い過ぎだけど、確かに夜道は危ない。乗って。何かあったら嫌だから。それに、両手が塞がっている状況はよろしくないよ」
「………………では、お言葉に甘えて」
橋本さんは少し考えてから私を見て言った。
「うん。どうぞ」
私は橋本さんを車に乗るように勧める。
橋本さんはそれに応えて車に乗ってくれた。
「嬢ちゃんも」
「うん」
私も橋本さんに続いて車に乗り込もうとしたとき、またもやあの女の声が聞こえた。
『日向君!何見てる?早く行こうよ!』
まだ、いたのか。
早く帰らないと終電の時間になるのでは?
都会と違って終電の時間は早い。
「ねぇ!椎名さん」
「んぁ?」
私を呼ぶ声に反応したのは海だった。
ただ、この反応の仕方が少々よろしくない。
『んぁ?』って声は少々不機嫌だった。
そして、声の低さが普通ではない。
「椎名さん。申し訳ないけど駅まで送ってくれない?」
声がする方向を見ると日向とあの女がいた。
は〜ぁ。
帰らせてくれ。
「嬢ちゃん。どうする?」
さて、どうしようか………………
………………。
女の嫉妬は【悪戯】を引き起こす原因にもなるし。
ここで、私が送るのは面倒事になる。
ここで、断る選択をした場合は何が起こる?
………………。
………………。
理不尽なことが起きる場合もあるか。
「嬢ちゃん。めっちゃ悩んでるなぁ?そんな悩んでる嬢ちゃんもかわええ」
「アホ」
「そんなに褒めないでっちゃ。嬉しいなぁ」
「………………」
どう考えたら褒める言葉に聞こえる?
やっぱ、柚月に捨てられて頭がおかしくなったか?
可哀想に。
言葉が理解できないのね。
「やった!駅まで結構、歩くから助かっちゃった!!」
………………。
よし、もうちゃっちゃと片付けよう。
「海、この2人を駅まで送ってあげて。そこの2人は後ろに乗って。橋本さんもいるから」
「いいんかぁ?」
「いい」
2人を乗せて私も乗り込む。
海は急いで運転席に乗り込み、駅に向かって車を走らせた。
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