第18話

「ここの料理、美味しかったね。やっぱり、人に教えているだけある」



そんなこと言っている場合ではないと思うけど。



「何やってるの!空になった皿を下げてよ!」



「分かってますよ!!今やってます!」



女の上司だろうか?


50代くらいにおばさんが女を叱りつけた。


女は近くにあった皿をトレーに乗せて厨房に戻っていく。



「椎名さん!これ、袋に入れてくれたの。結構、パックの数あるからね。重いよ」



橋本さんが少し大きめの袋を2つ持って戻って来た。



「ありがとう。結構、余ったんだ」



「エビチリとか。チキンは余ってなかったよ。まぁ、そうだよね」



エビチリか。


おかずになるからいいか。


中華、大丈夫だよね?


橋本さんから袋を貰う。


確かにズッシリとした重みを感じる。


この量は冷凍すれば数日は大丈夫だろう。


レンジでチンくらいは出来るはずだ。



「チーズ貰っちゃった。助かったよ」



「チーズ?余ったの?」



「余ったというかなんというか」



余ったわけではないのか。



「カレーとチーズ。最高だよね」



「………………」



いや、確かに美味しいけど。


食べ過ぎに注意だよ。


飲みかけのオレンジジュースを飲み干し、コップをテーブルの上に置く。



「何か飲む?」



「もういい。橋本さんはもういいの?」



「うん。お腹いっぱい。流石にもう無理」



今日はたくさん食べた。


周りの先輩たちが食べろ食べろと勧めてくるし。


いろんな料理を食べて欲しかったみたいだけど。


他の一年もたくさん食べて限界のようだ。



「日向君!私、終わったの!こっちはまだ終わらないの?」



女が戻って来た。


ちゃんと私服に着替えている。


本当に終わったのか?



「橋本さん」



私は日向から離れるため、橋本さんの手を掴んでその場を離れる。



「あれは、終わった後が面倒だね。今がまだいいほうだね。日向君って、帰りは電車なのかな?それって、最後まで一緒?うわぁ、可哀想」



「あっ、春巻きもある。ポテトも。やっぱり、油物多いか」



袋の中を覗くと油物が多いことに気づく。



「椎名さん?」



「まぁ、年寄りじゃないから油物でもいいかな」



「誰かにあげるの?」



「ご褒美」



「………………」



黙らないで欲しいな。


危ないことではないからね。



「うわっ!おい!時間、過ぎてるぞ!」



誰かがそんなことを言った。


時間が過ぎてる?



「時間?」



橋本さんは携帯で時間を見る。



「本当だ!予定より50分も過ぎてる!お店の時計遅れてるよ」



あら、それは大変。


というか、今まで誰も気づかなかったの?


それはある意味凄い。


大幅に時間が過ぎてしまって慌ただしく歓迎会は終了した。


それぞれ、帰り支度をしてお店から出て行く。



「椎名さん。行こう!」



「橋本さんはお兄ちゃんと一緒に帰るの?」



橋本先輩の姿が見えないけど。



「うん?いや、お兄ちゃんは友達はどっかに行くって言ってたから。1人で帰るよ」



「………………ちなみに、どうやって帰るの?」



「電車と歩き。駅から30分くらい歩くかな。バスがないからね」



「迎えとかは?」



「親は旅行中」



「………………」



家に着く頃には11時過ぎにならない?


流石に………………



「電車はどのくらい乗るの?」



「10分くらい」



なるほど。


なら、車だと30分くらいか。


チラッと橋本さんを見る。


右手に余った料理と左手にバッグ。


うーん。



「橋本さん」



「ん?」



「ちょっと来て」



「ん!?」



強引かもしれないけど、橋本さんの話はあまりよろしくないと思う。


お店から出て車を探す。


どんな車で来ているのか分からないけど、車の中で待っているか外で待っているかのどちらか………………


………………。


………………。


は〜ぁ。



「椎名さん。なんか、ヤバそうな人いるよ。なんか、雰囲気がヤバそうだよ」



「そうだね」



やっぱ、限界があるか。


黒のセダンの真横に立っている男は私に気づくと小さく手を振ってくる。



『日向君!カラオケでも行かない?』



まだ近くにいたのかあの女の声が聞こえる。


早く帰ればいいのに。


私は、橋本さんを引っ張りながら違う意味で目立っている男のところに行く。



「ちょっと、椎名さん?マジで?」



「大丈夫。私の知り合いだから」



「………………」



男の目の前に立つと橋本さんはガッチリと固まってしまった。



「ごめん。遅れた。あと、この子の家までお願い。1人で帰ろうとしているの。この時間を1人で歩くのは危ないと思うの」



私の話にチラッと橋本さんを見る。


しかも、下から上へとじっくり。


それ、やめてくれない?



「まぁ、いいっちゃよ。若いもんが夜に歩くもんじゃないっちゃ。最近は物騒だっちゃ」



うん。


お前も物騒だよ。


喋り方はふざけているけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る