第17話
『これ凄く美味しいんだよ!まかないでも食べるけど、これは凄く美味しい!ただのパスタとか思っちゃダメ!』
連れ戻されては何かと仕事を見つけて舞い戻ってくる。
本当にそこの頭は回るらしい。
そんなに仕事があるのだろうか?
いや、頻繁にくるほど仕事はないと思うけど。
「日向君の周りに誰もいなくなっちゃったね。先輩も同学年の子も」
橋本さんは日向のことが気になるのかチラチラと様子を見ている。
どこか可哀想だと思っているのかもしれない。
省かれているわけではないが、バイトの女が原因だろう。
日向も「邪魔」「うるさい」「どっかに行け」とか言っている様子もないし。
何か行動するつもりもないし。
「橋本さん。気にしなくていいと思う。彼はあれでいいの。そのうち、自分でなんとかするよ」
「そうなんだけど。このサークルと意外とチームワークが必要な時もあるから。ずっと1人でってことは難しいと思うんだよね」
「橋本さん。いい人だね」
「ん?」
そこまで考えていたら自分が巻き込まれてしまいそうで嫌だけどね。
橋本さんはそういう考えはしないらしい。
『おい!仕事しろ!配膳終わってないだろ!デザートがまだ作業台にあったぞ!』
怒られた女は「はーい」と長い返事をして日向から離れた。
たが、すぐにデザート持って戻ってくる。
これは減給ものにならないのだろうか?
不真面目な仕事だと思うけど。
「椎名さん!このケーキ美味しいよ。紅茶とよく合う」
「うん。スポンジがふわふわだね」
これ、余らないかな?
………………。
流石にデザート余らないか。
「チーズケーキも美味しいよ」
ん?
「あれ?日向君。どうしたの?あそこから動かなかったのに」
橋本さんは驚いているようだ。
動かないお地蔵さんが動いてしまったみたいな反応。
いや、分かりにくいか。
「しっとりしてて美味しいよ」
うん。
橋本さんのこと見てないね。
で?
バイトの女はどこ?
そう思って日向の後ろを見る。
すると、凄い顔でこちらを見る女がいた。
あーっ、なんていうか。
悔しいとかの顔ではないなぁ。
「あなた、なぜこっちに来たの?」
「来ちゃ悪い?」
「………………」
悪いと言ってもいいだろうか?
ここの場所を考えれば言ってはいけないことかもしれない。
でも、後ろの女のことを考える言いたい。
「あっ!椎名さん!私、店員さんに頼んで余ったものパックに入れてくれるように頼んでくるね!」
何かを感じたのか橋本さんはそう言って逃げた。
まぁ、正しいかもしれないけど。
私も一緒に行きたかった。
「ねぇ?なんで黙ってるの?」
「考えていたから。確かにチーズケーキ美味しかった」
「………………遅い」
………………。
お前が言ったんだろ?
「歓迎会、参加したんだね」
「参加しちゃ駄目だったの?」
「参加しないと思ったから」
「………………」
………………。
私、短気ね。
こんなことで。
カルシウムが足りない?
「バスで通っているのに、歓迎会に参加したらバスの時間無くなると思ったから」
「そこはちゃんと考えた」
「送り迎え?もしかして、東賀さん?会えるかな」
「残念ね。違う人」
「違う人?」
「そう」
かなり、駆け離れた人なのは間違いない。
「なんだ。会えたらいいなって思ってたけど。会えないのか」
「仕事だから迎えは別の人」
「ふ〜ん」
何?
なんか納得できないの?
そんなにお父さんの会いたかった?
あなたってそんなにお父さんのこと好きだったっけ?
「日向君!何も飲み物持ってこようか?さっぱりした飲み物とかどう?」
後ろにいた女が横から近づいてきた。
「いらない」
「そっか。あっ!まだ、チーズケーキあるよ?食べる?気に入ったらレシピも教えてもらえると思うけど。聞いてこようか?」
この女、本気で言ってるの?
レシピを聞いてくる?
アホか?
「いらない」
「………………あの、終わったら時間あるかな?歓迎会終わる時間と私の勤務時間同じなんだ。ダメかな?」
お誘いをみんながいるところで堂々とするのか。
しかも、仕事中だろうに。
「椎名さんは、何か持ち帰るの?」
「余ったものを貰う」
「俺も何か貰おうかな」
「早めに言ったほうがいい。そんなに多く余ってないと思うから」
そろそろ終わる時間だし。
パック詰めには時間がかかるだろう。
「日向君!!ねぇ!この後のことだけど!」
話を聞いてくれない日向に苛立ちを感じたのか、声を張り上げて日向に問いかける。
だが、日向は全く相手にしていない。
その対応はよろしくないと思う。
それが分かるように女の顔は徐々に暗いものへと変わっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます