第16話

『えーっ!!日向君、サークルに入ったの?だって、コンテストサークルには入らないって言ってたのに!』



だから、声がデカイ。


なぜ、そんなに声が響くのだろうか。



「お待たせしました。チキンだぞ。揚げたてホヤホヤ!出来立てが一番美味しい。早いもん勝ちだ」



大量のチキンが乗った皿を持って戻って来た橋本先輩はテーブルにドンッ!とチキンを置いた。


確かに揚げたてホヤホヤだ。


これは食べなければ。


周りのみんなも同じことを思ったのか、すぐに手を伸ばしてきた。


私もその中に混ざり揚げたてチキンを自分の皿に取り分ける。



「お兄ちゃん!呑気にチキン持ってくる場合じゃないよ!」



「おっ、お前もチキン食え。美味しいから。先生が昨日から仕込んでくれたんだぞ。早くしないとなくなるぞ。あと、お前の好きなカレーあっちにあったぞ。余ったら貰うか?」



「えっ。本当?貰う貰う!って!違う!!!」



「はぁ?」



へーぇ。


橋本さんはカレーが好きなんだね。


カレーにハンバーグとチーズを入れたら最高に美味しいと思う。


グラタンみたいでいいと思うよ。


………………。


食べたくなってきちゃった。


私もカレー貰えないかな?


………………。


他にも余るかな?


余るなら貰えないかな?


一応、ご褒美はあげないとそのうち言う事聞かなくなるかもしれないし。


いや、躾はしっかりしていると思うけど。


食生活の躾はしてないと思うし。


あっ、揚げたて美味しい。


ジューシーだ。


肉汁が溢れる。


これは、余らないよなぁ。



「ここのバイトが日向君に言い寄ってる!」



「そうだな」



「そうだなって………………これ、歓迎会だよね?関係者だけだよね?見てよ!ちゃんと見て!」



「落ち着け。帰って来ないバイトがいれば呼び戻されるだろ。ここは様子見だ」



まぁ、それがいいだろう。


あとでぐちぐち言われると思うし。


あの女は働いているのだ。


ここは教室でもないから自由に動くことも出来ない。


それに、今日は歓迎会だ。


少しでも平和に終わらせたいだろう。



「カレーいいのか?」



「食べるよ。チーズ入れちゃお」



橋本さんはカレーがあるテーブルのところまで行ってしまった。



「高カロリーだな。アイツ、たくさんチーズ入れるんだ。伸びる伸びる。家の冷蔵庫はいつもチーズが5つストックしてる」



「低カロリーのチーズもありますよ」



「それは嫌らしい」



カレーよりチーズが好きなのでは?


戻ってきた橋本さんのカレー皿には盛りもりのチーズがのっていた。


想像していたより凄い。



「マジか!?お前、それはダメだろ!!まさか、その場にあったチーズ全部使ったのか!?」



「使い放題」



「アホか!!!」



兄妹喧嘩?もほどほどにしてほしい。


今はそんなことをしている場合ではない。



「椎名さん。今度、和菓子のコンテストに出るんだって?私も出るんだ。毎年、開催されてるコンテストなんだけどね」



近くにいた先輩に話しかけられた。


橋本先輩と橋本さんばかり話している場合ではないな。



「はい。初めてのコンテストになります」



「分からないことがあったり聞いてね。ライバルになる人とかも教えられると思うから。毎年、他の学校からも参加するからねぇ」



確かに、料理関係の学校がここだけではないし。


どのくらいの応募数になるか知らないけど。



「椎名さん。食べる?今日の主役は一年の君達なんだから!じゃんじゃん食べて食べて!後でゲームやるから。景品もあるからね。おい!そこの2年!酒を飲むな!今日は酒は禁止だぞ!!」



うん。


穏やかだなぁ。


いや、これが穏やかというものとは違うかもしれないけど。


ちゃんと参加してる感じがして。


ゲームというものはビンゴゲームだった。


まぁ、景品は無理だったけど。


それなりに楽しめた。


橋本さんは運がいいのか3位を取った。


景品を貰った橋本さんはすぐに中身を開けた。


中身は貯金箱。


このサークルはお金が掛かる。


だから貯金箱というわけ、か。


う〜ん。


まぁ、貯金は大切だけど。


嬉しいのかと聞かれたら微妙だ。


橋本さんもいい表情ではなかった。


周りの先輩は笑っていたけど。


多分、そういう意味もあったのだろう。



「優奈。そんな顔するなよ。貯金箱なんて持ってなかっただろ?」



「いや、そういうことじゃないよね?つーか、景品考えたのお兄ちゃんたちだよね?私、知ってるんだから!!家でお兄ちゃん達が話してたの聞いてたんだから!」



「盗み聞きか?悪い子だな」



「いや、聞こえる声で喋っているからじゃん!!自分の部屋ですればいいのに、なぜリビング!?」



「俺の部屋は汚いからな」



「片付けろよ!!」



兄妹ってこんな感じなのかな?


………………。


私にはいないからなぁ。


亮君も妹いるけど、歳が離れているし。


こんな言い合いはしないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る