第15話
「今回は凄く大変だったらしいね。家に帰ってくるお兄ちゃんを見てたら分かるよ。ソファーでグッタリしてるの。そこから動きたくないって感じでさ。可哀想に………………私も巻き込まれた感じはあるけど。最後の最後に日向君を入れることに許可出したみたいだけど。家でもすご〜く悩んでいたからね。大好きなハンバーグを私に取られたのに怒られなかったし」
ハンバーグ好きなんだね。
私も、好きだよ。
お父さんのハンバーグは最高だ。
「たくさん悩むほど、今回のことは凄く厄介だったのね」
「私だったら拒否するけどねぇ………………まぁ、簡単に拒否は出来ないけど。先輩たちも可哀想だよね。」
何かあるみたいに言い方だけど。
「椎名さんは日向君と同じクラスなの?」
「うん」
「………………大変だねぇ。教室の中がいつもザワザワしてそう。私のクラスも日向君の話するよ。お前らは女子中学生か?って感じだよ」
「橋本さんは?しないの?」
「顔はいいけど性格がなぁ。アレは無理だね。さっきも挨拶だけしたけどツーンって感じだったの。挨拶くらいしろや!って。偉いわけでもないのにね。その他の人達はいい人なのに。1人がアレだと雰囲気悪くならないかな?」
「そうねぇ。彼は昔からあの感じっぽいと思うから改めることもしないだろうし」
「椎名さんって日向君のこと知ってるの?」
「知らない。私よりお父さんのほうが詳しいかもね」
なんだっけ?
ミンエイだっけ?
彼の件もあるみたいだし。
「そうなんだ。親繋がりで仲がいいのかと勝手に思ってた」
「全く。彼の父親は知らないけど、私の父親は仕事の話とかそんなに持ち込まないから。どんな賞を取ったとかもあまり知らないの。多分、みんなのほうが知ってると思うよ」
「へーぇ。まぁ、自分のことをペラペラ話すのもねぇ。なんかねぇ。嫌だよね」
自分のことをたくさん話すお父さんか。
多分、何があったの?って聞いてしまうかもしれない。
お母さんはデザインがどーのこーの聞くけど。
「東賀さんはテレビにも雑誌にも出るよね。この間、グラタン作ってたよ。凄く美味しそうだった。お兄ちゃんはメモってたけど。お前、本当に作るのか?って言いたかったけど」
「へ〜ぇ」
「いや、へ〜ぇって。見てないの?」
「見てない」
グラタンか。
そういえば、前にグラタンの日か続いたことがあったな。
まさか、それか?
「やっぱ、家族はそんなもんなのかな。うん。そういうもんか」
「グラタン食べたよ」
「えっ?」
「前にグラタンだらけの日か続いたことがあったの。あれは、試作品だったのか」
「………………そこで気付いてよ」
「グラタン好きだから。具材は毎日違ってたよ。ほうれん草のグラタンが一番美味しかった」
「それだよ!!そのグラタンだよ!!いいなぁ。食べたいなぁ」
「レシピ教えようか?」
「レシピ教えられてもね。同じように作れないよ。味だって変わるだろうし。椎名さんが羨ましい。東賀さんの手料理を毎日食べられるなんて」
うん。
結構、よく言われることだけど。
お父さんの料理を毎日食べているわけではない。
お母さんが忙しい時とか、作りたい気分だったとかそんな時はお父さんが作ったりするけど。
「申し訳ないけど、お父さんの料理よりお母さんの料理を食べることが多いかも」
「えっ!本当に?」
「うん」
「それって、嫌がらないの?相手はプロだよ?」
「………………あまり、感じたことない。お母さんもそこはあまり感じてないらしい。見てて分かる」
「うーん。そういうもんなのか」
「そういうもんだよ」
あっ、このトマト美味しい。
甘いし。
『日向君?やっぱり日向君だ!』
なんだ?
それなりに普通の賑やかさだったのに、急にこの歓迎会に似つかわしくない声が聞こえた。
「うわぁ、まさかのバイトか。そこは考えてなかった。でも、ここって短大に近いし。ちょうどいいか」
何?
「バイト?」
「見てよ。あっち」
橋本さんが言った方向を見るとウェイトレス姿の女が日向に言い寄っているところだった。
あぁ、本当にたまたまってことか。
その女の手には大きめのトレーがあった。
配膳のところで日向のことを見つけたのか。
運がいいということなのだろうか?
「仕事をしろっての。自分が働いてるってこと忘れてるのかな?」
忘れているというか。
後回しになっているのかもね。
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