第14話

金曜日。


サークルの歓迎会が行われた。


会場は短大近くのレストラン。


テーブル席かと思ったら立食パーティー仕様らしい。


席に座るとそこから動かない人も出るし。


いい考えかもしれない。


交流を深めるにはたくさんの人を会話をしなければならないのだ。


そう、会話をしなければならない。


交流という意味を私はしっかり考えなければならないのだ。



「椎名さん。どう?食べてる?」



「はい。このお肉柔らかくて美味しいです」



「良かった。昨日から仕込んでくれてたみたいでね。この店。卒業生の人の店なんだ。調理科の非常勤の先生でもある。自分で店持ってるから、店の経営とかも教えてくれるし」



「へ〜ぇ。それはいい先生ですね。やっぱり、自分でやってる人は強いですよね。最近の市場にも詳しそうですし」



「そうなんだよ。人気な先生でもある。しかも、短大の近くに店あるし。他のサークルも歓迎会やらお疲れ会やらよく利用するんだ。それに安くしてもらってるし」



橋本先輩は嬉しそうに言った。


料金面が嬉しいのだろう。


これだけの人数がいれば………………


請求金額を見るのが怖い。


まぁ、そんなことより。


チラッと端っこにいる日向を見る。


許可したのだろうか?


いや、許可したからいるのか。


日向の周りは先輩やら同学年の人達が取り囲んでいた。


まぁ、アホな人達ではないからうるさい声などは聞こえないが………………


橋本先輩が言っていたボス的な先輩がしっかり見極めたらしい。


多分………………



「椎名さん。帰りは大丈夫なのかな?」



「大丈夫です。車です」



「そっか。バスの時間があるとゆっくり出来ないし。途中で帰ることになるからね。途中で帰ると目立つからなぁ。みんなの視線が怖い」



だろうな。


歓迎会で途中で帰ることなどあまりしたくない。


お父さんも最後までいたほうがいいって言っていたし。


でも、車の運転はダメって言われたし。


お父さんもお母さんも仕事があるし。


そこで【アレ】の出番だ。


こういう時のために【アレ】なのだろう。


【アレ】と言った時のお父さんはニコニコしていたけど目は全く笑っていなかった。


目が非常に冷たかった。


地獄の底でも見ているような感覚だ。


近くにいたお母さんはそれを聞いて包丁をまな板にゴリゴリと押し付けていた。


頭から角で出ているようにも見えた。


お母さんは裏にいなかったのに、素晴らしい迫力を私に見せてくれた。


お父さんよりお母さんが怖い。


私でも震えるほど怖かった。


その怒りは私に向けたものではなかったことに心底安心した。


………………。



「椎名さん?大丈夫?」



「大丈夫です」



危ない。


思い出してしまった。


オレンジジュースを一口飲んで落ち着かせる。



「しっかし、なんとか歓迎会が出来て良かった。毎日、毎日、地獄の選別。これっきりにしてほしいもんだ!」



最悪な結果にはならなかったのはいいことだ。


あのまま日向目当ての人達が入って来たらうるさいサークルになっていたことだろう。


真面目にやっている人達と喧嘩になって………………



「橋本さん!食べ物こっちないよ!チキン!やっぱり、チキンが一番人気だ。多めに頼んでて良かった」



「はいはい。もらってくるから待ってろ。俺が頼んでたんだけどな!!」



橋本先輩はパシリになっているのだろうか。


本人は気にしていないらしい。


頼りにされているのが嬉しいのだろうか?


まぁ、頼りになる人っぽいのはなんとなく分かる。



「椎名さん!仲良くしよーね!!」



そして、馴々しく接してくる知らない1年生。


誰?


あなたは私のこと知ってるらしいけど、私はあなたの名前もどこの学科なのかも知らない。



「ごめんなさい。あなたの名前を聞いてもいい?」



「あっ、ごめん。私、調理科の橋本優奈。橋本良樹の妹だよ」



橋本先輩の妹?


妹………………


兄妹揃って調理科なのか。



「椎名凛。製菓学科1年。よろしくね」



「うん。よろしくね。私、今日からサークルに入ったけど。たくさんいるんだね。お兄ちゃんに誘われて入ったんだけど。まさかの歓迎会当日ってね。料理を狙ってるわけじゃなかったんだけどさ。たまたま」



仲良しなんだね。


それはとてもいいことだ。

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