第10話

次の日。


放課後の時間になりサークルに行ってみると予想通りの混み具合だった。


かなり揉めているようだ。


それに対応している先輩たちは凄い。


だが、その中には本当にサークルに入りたい人達もいるはずだ。


………………。


時間が掛かりそうだ。



「椎名さん。こっちだよ!こっち!」



橋本先輩は部屋の端っこにあるテーブル席にいた。


しかも、橋本先輩だけではない。


他の先輩たちも端っこにいる。


なんか、先住民が開拓者に追われたみたいだ。


これは、どうなんだ?


堂々と中央にいたほうがいいと思うけど。



「橋本先輩。こんな端っこに追いやられてちゃったんですか?」



「いやぁ、ここだと安心感というか。入口付近は受付でうるさいし。昨日より今日が酷くて。うちのボスが受付で対応してくれてて。あっ!ボスっていうのは昨日言い合いしていた女子なんだけどね。これが強い子でね。見る目があるっていうか」



「なるほど」



やはり、女子は強いらしい。


最近は女性でもバリバリ働く世の中だ。


男より動ける女性も多い。


昔のように影で夫を支えるような世の中ではない。



「コンテストの用紙まとめてあるから見てよ。素人向けからプロ向けまで色々あるよ。プロは無理だと思うから、最初は素人向けがいいと思うよ」



渡された応募用紙を一枚一枚確認する。


こういうの初めてだからなぁ。



「金額は気にしないで。そんなの気にしてたら勉強にならないから。いいの見つけたら早めに応募したほうがいい。準備期間は限られてるし」



う〜ん。


どうしようか。


お金を支払ってコンテストに出るのもあれば、無料でコンテストに出られるのもあるけど。


賞金とか、それなりの品があるものは募集人数もそれなりになりそうだし。


だけど、よく分からないコンテストに出てもしょうがないし。


この前言っていた和菓子コンテストもあったけど。


和菓子か………………



「見てるところ悪いんだけどさ。今度、1年の歓迎会予定してて。参加してくれる?強制じゃないから。椎名さんはバス通いって聞いたからさ。遅くなるし。帰りのバスがなくなっちゃうかも」



歓迎会?


そっか。


そういうのってやるのか。


歓迎会か………………


嫌ではないけど。



「返事は今がいいですか?」



「明日でもいいよ。来週の金曜日予定してる」



「分かりました」



聞いてみないと分からない。


帰りがちょっとどうなるか。


途中で抜け出すことになりそうだけど。



『日向君が入るって聞いたからって、急にサークルに入りたいとかありえないよねぇ』



『だよなぁ。んで?日向の姿がないけど?』



『橋本先輩が保留って言ってたよ』



どこからか日向に関する内容が聞こえてきた。


なるほど、日向の件は保留なのか。


可哀想に。


だから、自分で片付けないといけないのだ。


………………。


可哀想とは本気で思ってはいないが。



「何かいいのあった?」



「迷います。和菓子はどら焼きくらいしか作ったことないので」



「そっか。初めてに挑戦するのもいいと思うよ。和菓子の本とかあるし」



和菓子の本か。


………………。


………………。


………………。


失敗を恐れていたら前に進まないし。



「やってみます。このコンテストにしてみます」



「分かった。手続きの仕方とは教えるから。あと、前の作品とか見てもいいと思う。勉強になるよ。最初から難しいのは作れないけど、ヒントにはなるかもしれないし。もちろん、俺たちに相談してもいい。先生に聞いてもいい。遠藤先生が見てくれるから。すごーく怖いけど。何度も怒られるし。マジで泣きたいくらい怖いし。いや、泣いたし。無言の叱り方怖いし。このサークル遠藤先生が見てくれてるから」



橋本先輩が遠い目をしているが、私は和菓子のコンテストを見ていた。


和菓子の本を借りて勉強しないと。


なんとか形だけでも。


最初は自分の力でどのくらいいけるのか試してみたい。


賞なんて無理かもしれないけど。


それでも、考えて応募するだけでも今は上出来だろう。

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