第9話

家に帰るとお母さんが玄関で出迎えてくれた。


ニコニコととても嬉しそうな顔で。


何かいいことでもあったのだろうか。



「凛、荷物を置いたら早く1階に来てね!」



「うん」



本当にどうかしたのだろうか?


荷物を自分の部屋に置いて1階に降りると、お母さんがバシバシとソファーを叩いていた。



「凛!座って座って!!早く!」



興奮気味だなぁ。


ソファーの近くで寝転んでいたケイはびっくりして顔をあげて固まってしまっている。


だるまさんがころんだ状態だ。


隣に座るとお母さんがテーブルの上に何かのパンフレットを置いた。



「何?」



「私、くじ運ないけど今回はどうやら違ったらしいの。これも日頃の行いがいいからね。新人さんに優しくしていたからかな?それとも、たくさんアイデアを出したからかな?やっぱ、親切することはいいことだよね」



親切とか優しくとかあまり関係がないと思うけど。


テーブルにあるパンフレットをよく見ると旅行のパンフレットだった。


さっき、くじ運がどうのこうのって言っていたよね?



「まさか、当たったの?」



「そうなの!パンのシールを集めて応募してみたら大当たり!お皿でも当たったのかなって思いながら開けても見たらこの通り!!凄いでしょ?今度の夏休みにどうかなって。まさか、学校が忙しくて無理とは言わないよね?そんなこと言われたらお母さんショックだよ!確かに高等学校より大変かもしれないけど!夏休みは学生だけのものだから!社会人にはないの!分かる!?」



いや、休みじゃないとか言ってないよ。


私の話を聞いてほしいのに。


休みがないって確定してるよね?



「休みだよ」



「あっ、そうなの?なら大丈夫だね!楽しみだなぁ」



まだ、先が長いけど。


夏休みか。


今年の夏休みは真理亜と遊べるかなぁ。



「海水浴もできるよ。巨大プール付きだって!温水プールだし。冷えすぎないし。温泉もあるし!温泉とか最高だよね。大きな湯船で足を伸ばしてゆっくり入れるなんて」



私よりお母さんが喜んでる。


子供みたいだな。



「誠也には帰ってきたら伝えるとして。ご飯にしようか。今日は遅くなるらしいから先に食べちゃおうね」



「うん」



今日のご飯は煮魚だ。


濃いめの味付け。


これは、何かに集中して分量を間違えてしまったパターンかな。


まぁ、旅行のことで頭がいっぱいだったのだろう。


お風呂に入ってからソファーで寛いでいるとお父さんが帰ってきた。


お母さんは冷えてしまったご飯を温め直してテーブルに置く。


そして、少し落ち着いたところで旅行のことを伝えた。



「へ〜ぇ。大当たりか。今年の運は終わったかもねぇ」



お父さんはパクッと煮魚を食べる。



「誠也!そんなこと言わないでよ!酷いと思う」



「こんないいところが当たったんだよ?何度も大当たりしないでしょ。ねぇ?今日の煮魚は濃いめだねぇ。よそ見してた?しょっぱい。塩分取りすぎは良くないのに。漬物も」



「ウッ………………そ、そんなことない。そんなことよりさ!どうなの?仕事休める?誠也は自由度高いから大丈夫でしょ?前もって予定を立てておけばいいでしょ?」



いや、してたでしょ。


声が震えてるよ。


お父さんの前で嘘は意味ないから。


お見通しだよ。



「自由度高いって………………そんな自由でもないけどね。プールか………………誰か誘って行く?料金は自己負担で。いつものメンバーかなぁ」



「そうだね。また合同家族旅行しちゃう?」



悟さん家族と猛さん家族?


なら、亮君と透君に会えるかも。


それは楽しみだ。



「みんなでバーベキューとかもいいかも!早く言わないと!」



「俺から言っておくよ。話たいこともあったし」



「本当?なら、お願いね。でも、早めに!人気なところだから、今から予約しておかないとすぐにいっぱいになるよ。別のホテルとか悲しい。やっぱり一緒のホテルがいい」



「はいはい。分かったから。そんなに興奮気味で言わないで。ほらっ、さっきからケイが驚いてるよ。分かるんだねぇ。猫でも分かっちゃうんだねぇ。うちの猫は人をよく見てるね」



バーベキューか。


準備大変そう。


あっ、貸し出しか。


なら、準備しなくてもいいのか。


それは簡単でいい。


片付けも楽そうだし。


まだ、早い夏休みだけど楽しみが出来て嬉しい。

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