第6話

ある程度、説明を聞いて………………


いや、ほとんど日向が聞いてくれたんだけど。


………………。


私に喋らせてくれない。


討論会じゃないんだから。


言って答えて言って答えて。


スピードについていけなかった。



「やっぱり、一番マシだったかな。実績ができれば就職にかなり有利だし」



あなたは、自分の父親のところに行かないの?


私にも同じこと言われそうだけど。


私は行くつもりないし。


自分の将来はちゃんと自分で決めるつもりだ。


それに、お父さんのやっている仕事と私のやりたいやりたい仕事は違う。



「コンテストに出るだけでも大変なものもあるみたいだね。審査を何回も通って。かなり難しいけど。それで賞を取れたら道は明るいよ。チームで組むのもいいけど。最終的な個人になるし………………ねぇ?椎名さん」



「何?」



「椎名さんて、喋らないよね」



「………………」



まさか、直球で言ってくるのか。


もっと、オブラートに言えないの?



「友達少ないよね?今のところ、大塚さんしかいないよね。大塚さんと一緒にいるか1人でいるか。高校でもそうだったの?確か、あの四葉だったよね?学費がかなり高くて、なかなか入学出来ないって有名な学園」



この男の説明するつもりはない。


だけど、勝手に友達が少ないと言われるなんて。


実際、少ないけど。


小学生も中学生も1人もいなかったけど。



「誰でもいいから友達になるってわけにはいかないでしょ。それは、あなたにも言えることじゃない?最初に群がってきた人達と友達になりたいって思う?私は思わないけど。目と態度を見れば分かる。利用されたくないから」



裏にいたからなのか、利用されるというのが好きではない。


いや、表の人も自分が利用されているなんて好きじゃないと思うけど。



「私、帰る。時間だから」



「あぁ、うん」



バスの時間だ。


乗り遅れたら1時間後になってしまう。



「あっ!日向君だぁ………………椎名さんも一緒?2人でどこ行って来たの?」



クラスの女が声をかけてきた。



「サークル」



「えーっ、私も誘ってよ。一緒に行きたかったなぁ。どこのサークルに入るの?私も一緒に入りたいなぁ」



「入らない。邪魔。もう帰るから」



日向は女を押し退ける。


………………。


私は、既に2人から離れて歩いていた。


巻き込まれたくないもの。


ちょっと駆け足気味に乗り場まで急いでバスの乗り込む。


空いている席に座るとバスは出発した。


どうやらギリギリだったようだ。


それから、バスの中で課題をやりながら暇を潰す。


バスの時間を有効活用しないと課題が終わらない。


課題が終わる頃には地元のバス停に到着する。


ただ乗ってるだけなら遠くに感じるけど、何かをしているとあっという間だ。


バス停に着くと空はもう真っ暗だ。


今日はいつもより遅くなってしまった。


急いで帰り道を歩く。


家に帰るとお父さんもお母さんも帰っていた。



「ただいま」



「おかえりなさーい。すぐにご飯だよ」



お母さんがキッチンから言う。



「分かった」



「今日は遅かったね。どうかしたの?」



「サークルを見てたの」



「サークル?あら、いいじゃん。学生時代しか楽しめないもんね」



「お父さんは?」



「仕事部屋よ。お持ち帰りして来ちゃったの。終わらないって騒いでた。顔を真っ青にして」



忙しいのか。



「どうかしたの?」



「サークルに入っていいか聞こうとしたの」



「いいじゃん。入りなさいよ」



「でも、お金とか相談しないと」



「お金のことは心配しないの。甘えなさい。帰りが遅くなるくらい覚悟してたから。楽しいこといっぱいだもんね」



「いいのかな?」



「いいの。いいの。バスの時間に間に合えばいいんだから」



夕ご飯の時間になって、仕事部屋から出て来たお父さんは手に資料を持っていた。



「誠也。終わらない?」



「うん。終わらないねぇ。締め切りが明日なんだ。忘れてたんだ。そう、忘れてたんだよねぇ………………」



「………………それは大変ねぇ。ねぇ?忙しいところ悪いんだけどさ。凛がサークルに入りたいって」



「サークル?どんなサークル?」



「あっ、それは聞いてなかった」



「………………」



確かに、言ってないや。


お母さんったら言ってないのに了解しちゃったよ。



「コンテストに応募するサークルだよ。授業でもコンテストに応募するけど、それ以外に挑戦出来たり」



「ふ〜ん。いいんじゃない?勉強になるし」



「地方に行ったりするから費用とか掛かるよ?」



「気にしないで。学生のときにしか出来ないことをしないとね。バスの時間に間に合うならいいよ」



お母さんと同じこと言ってる。


でも、許可はもらったし。


明日でも入部依頼してみようかな。

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