第20話

あたしは送る必要はないと断ったはずなのに隣に並んで自然に歩きだす。歩幅を合わせ会話を繋ぐように、言葉を掛けてくる。


「いくらだった?」


「……わからない」


――迷った結果、言わないことを選んだ。

後のことを考えたらその方が利口だから、あたしの口からは何も言わないけど。


「わからない?教えてもらえなかった?」


「うん」


「じゃあリオちゃんはいくら貰った?」


「分け前1万円と、個別に3万」


「そっか。少ないね」


「十分だよ」


勘違いしちゃいけない、と自分に警告する。

取り分を聞いた途端に優しく声を掛けて、油断させて罠に掛けようとしているんだこの人は。


「もっと稼ぎたいとか思わないの?」


「生きていくのに必要な分だけでいい」


「自由になりたくない?」


ほらね、油断させてきた。

あたしが一番望むモノを餌にして、奥底にあるモノを探ろうとしてる。


釣られてポロっと口を開けば楽になれるかもしれない。でもそれは同時にあたしの首を絞めることになる。


「ヒロくんから乗り換えてコッチ側で稼がない?」


この人はあたしの味方なんかじゃない。

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