第5話

ホテルを出てからすぐ脇にある裏路地に入った。

別々に出られないように腕にしっかりと絡ませて恋人の様に振る舞う。表通りは色々と"目"があるから人目につかないように抜け道を歩く。


人目がないからオッサンはお構い無しに尻を撫で回してくる。ヒールの音がやけに響くこの不気味さが「もぉーいーかぁーい」と尋ねてるみたい。


――コツコツ、コツコツと踵を鳴らして路地の十字路に差し掛かったところで足を止める。


「どうしたの?忘れ物でもした?」


「……ごめんなさい」


オッサンに絡ませてた腕を離して距離を取るあたしを不思議そうに見て首を傾げた。


「え?なに、急に?」


「あたしは悪くない、から」


「え?え?」


意味が分からない、とますます不思議そうにするオッサンの背後からスッと現れる影。


その影に気づいたのか、オッサンがゆっくり振り返る。


「なっ、なんだ!?」


声を上げた頃にはもう十字路のど真ん中で囲まれてた。四方八方から影が現れる。あたしはゆっくりと後退して影の後ろに回る。前に出たところで邪魔になるだけだから。


「……ご苦労さん」


ぬっと生温かな体温が首筋に纏わりつくのを背中で感じながら怯えるオッサンをジッと見つめる。出番は終わって今度は傍観するだけ。


「なんだ、じゃねーよ。お前この女知ってんの?知ってて手ぇ出したの?」


オッサンの背後に居た影がせせら笑い、軽く肩に手を置く。たったそれだけの行動にオッサンは大袈裟に身体を揺らし泣きそうな顔をした。

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