第4話

唾液まみれになった身体を洗い流して着替えると、財布からお札を数枚抜き取りテーブルに置く。


オッサンに「ありがとう」と語尾にハートが付くくらいの猫なで声でお礼を言えば、顔をだらしなく綻ばせる。


それでも3万があたしの値段。


自嘲的に笑うあたしに何を勘違いしたのか、オッサンがキスをしてくる。無駄に分厚い舌を絡ませてくる気持ち悪さに少しだけ鳥肌が立った。


厚切りタンなら喜んでしゃぶりつくけど。


「こんな事言うのもあれだけど、キミはもっと自分を大事にした方がいいよ。僕みたいに優しい人間ばかりじゃないからね?」


「ん、分かってる。オジサンもね、自分大事にしてね?」


事後になると大体のオッサンは説教紛いな事を言う。


セックスしたくせに自分だけは許されるみたいな?自分はいいけど他の奴はダメだよ、って上から目線で否定すんの?


はっ、説得力ねぇし。


せっかく洗ったのにまた汚れた口元が不快すぎて吐きそうになる。気づかれないように袖口で唇を拭い、ネクタイを締め終えたオッサンと一緒に部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る