公爵様に溺愛されたい?渋いわねぇ
困ったことに、このポンコツ。なんだか最近、女神が板についてきたわよねぇと自己肯定感に溢れているのである。
その時、魔法陣が輝き、一人の女性が現れた。20代後半の美しい女性で、うるうると涙ぐんだ瞳をしている。
「あれ?私、たしか病室のベットで……死んだはずじゃ」
「はいはい、ようこそ〜。どんな異世界転生の希望でもぉ、完璧にこなせるエリートな女神、
「え!ここって異世界転生の神殿なんですね!女神様、よろしくお願いします!」
(あらぁこの子、素直で素敵ねぇ。さて、どんな願いかしら?)
「それじゃ早速、あなたのご希望を聞かせてちょうだい!なんでもいいのよぉ!わたしってエリートだから!」
前のめりでふんふんと鼻息が荒い女神に、若干引き気味の女性だったが、意を決して自分の希望をぶつけてみた。
「あの!私……異世界で『公爵に溺愛されたい』んです!……言っちゃった」
すると未子はニコッと微笑んだ(ん〜?こうしゃくってなんだっけ)。
そして、分かってないのを悟られないように、神殿の柱の間を行ったり来たりしながらありったけの思考を巡らせた。
(あ!
「わかったぁ!あの『
「はい!あの『
「一応聞くけど、古典的なあの『
「そうです!たしかに『
「分かるわ〜!流行ってるもんね、最近はイケメンも多いのよね!」
「ですです!分かってくださって嬉しいです!つまり『
(
「え?
「え?まさか
女性はその言葉に、目を見開き、顔を赤らめながら唾を飲み込んだ。
「あったりまえでしょ!任せて!」
未子は腰に両手を当て、自信満々に頷いた。そして設定リストを眺める。
(どれどれえーっと……あ!まさにピッタリなのがあるじゃないの!)
「おっほん!えーあなたには『お茶子から天下無双の講釈師になる』って設定をプレゼントしちゃう!」
「え?お茶子?から
「あ、お茶子しらない?えーとなんて言えばいいかな、異世界風にいうと……メイドのことよ!」
それを聞いて女性はぼんやりと思考したあと目を輝かせる。
「なるほど!ただの
「そうそう!まさにそれよ!」
「わあ最高の設定じゃないですか!ありがとうございます!」
「これでいい?他にも希望があれば言っていいのよ」
すると女性はもじもじしながら話し始める。
「あの……どうせだったら、仕事中はすごく冷静でクールなのに、私の前では本音を曝け出すような、ちょっとツンデレタイプの『
すると未子はにっこりとしながら応える。
「それなら大丈夫よ!『
「もう、最高です!うれしいです!」
「そうそう、あなたには【古典に覚醒する者】ってチートを授けるわ!これで思い通りの展開になるわよ!」
「え?チートまで!ありがとうございます!」
大満足している女性の様子に気分をよくした
「それじゃあ、いってらっしゃ〜い!」
◇ ◇ ◇
目を覚ますと、彼女は古風な演芸劇場の舞台裏に立っていた。そこには華やかな着物を着た人々が行き交っている。
「え?ここは異世界?……なんか日本ぽいんだけど」
すると一人の渋い男性が近づいてきた。彼はこの世界で大人気の講釈師だ。
「お嬢さん、新人のお茶子さんかな? 初めて見る顔だけど。」
「はい、でも、え、あの、もしかしてあなたは……?」
「僕はこの劇場で『
「はい!『
すると彼は優しく微笑んだ。
「若い女性に興味を持ってらうのは嬉しいな。特等席に案内するよ。」
(和風だけど、さすが『
特別席で初めての寄席を体験した彼女は【古典に目覚めし者】が発動し、えらく感激しつつ、その芸能の素晴らしさに魅了されていた。
そして寄席を終えた楽屋で、
「君、一度見ただけで、そこまであの話を理解していたのか?しかもその解釈まで……もしかして才能があるのかもしれんな」
「あ、あの!私を
「うむ。しかし古典芸能の道は厳しい、僕はかなり厳しいけど耐えられるかい?」
(もしかして、これって
女性は目を輝かせ興奮する。
「はい!ぜひよろしくお願いいたします!」
こうして、未子の勘違いから生まれるドタバタ劇は今日も続くのだった。
普通の主婦が転生の女神として奮闘中ですが異世界知識はゼロです! 月亭脱兎 @moonsdatto
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