番外 転生者のその後〜必殺ビームは突然に

 異世界に降り立った青年、名前はタカシ。


 ちょっとポンコツな転生支援の女神、田中未子たなかみこから与えられたチート「必殺ビーム」を手に、彼は最強の冒険者として大活躍する予定だった……はずだった。


「結局ビームって、どこから撃つんだよ……」


 タカシは異世界で目を覚ましたものの、最初から壁にぶつかっていた。未子みこからの説明があまりにも適当すぎたため、「ビーム」がどう機能するのか全く分からなかったのだ。


 魔法や剣技に憧れていた彼にとって、ビームはどうにも「ファンタジー」のイメージとはかけ離れている。


「ビームって……手から出るのか?それとも、目とか?」


 彼は混乱しながらも、アニメの知識を駆使して色々と試してみたが、何も起きなかった。


「あ、ステータス窓とか出るかな!」


 タカシは大声で「ステータス、オープン!」と叫んでみたが、虚しく周囲に響くだけだった。


「なんだよ……あの女神、本当に何も説明しないで送り出したのかよ……」


 次第に不安になってきたタカシは、街にたどり着くと冒険者ギルドで登録を済ませ、初仕事を引き受けることにした。お金も防具もない彼が選んだのは、近くの村に現れたゴブリンを退治するという簡単そうな依頼。


「さすがに俺、転生者だし、ゴブリンくらいなら余裕だろう……」


 しかし、いざゴブリンが襲いかかってくると、思っていた以上にタカシは動揺した。


「ちょ、待て待て!いきなり来るなよ!まだ心の準備が……!」


 ゴブリンが飛びかかってきた瞬間、タカシはとっさに両手を前に突き出した。そして——


「ビーム、撃てぇぇぇぇ!」


 するとついに!ビームが発射されたのだ。

 

 青白い光線が彼の手から放たれ、ゴブリンに命中。しかもその威力は予想をはるかに上回り、ゴブリンだけでなく、背後の木々までもがバタバタと倒れていった。


「おおお!やっぱりビームって最強じゃないか!」


 タカシは歓喜したが、次の瞬間、周囲で木々が燃え始め、火が広がり始めた。


「えっ、ま、まさかこんなに火力があるなんて……やばい!」


 慌てふためいたタカシはどうにか火を消そうとしたが、火はどんどん広がっていき、最終的には村の住人たちが駆けつける事態に。


「誰だ!この森を燃やしたのは!」


「す、すみません!ゴブリンを倒そうと思っただけで……」


 タカシは必死に説明しようとするが、住民たちは呆れ顔。結局、ゴブリン退治は成功したものの、森を半分燃やしてしまい、彼はギルドから「要注意冒険者」として警戒されることとなった。


 その後も、タカシはビームを使おうとするたびに思いもよらない問題を引き起こしていた。ビームの威力が強すぎるため、戦闘では無敵かと思いきや、過剰な破壊力が逆に彼を困らせることが多かった。


「どうにかコントロールできないものか……」


 ある日、村の井戸が壊れたという話を聞いたタカシは、ビームで井戸を掘り直そうと考えた。


「よし……地面ならさすがに問題ないだろ……ビーム、発射!」


 だが、ビームは想定より深く地面を貫通し、村の地下水脈を破壊。井戸どころか、村全体が水浸しになる危機に陥った。


「だめだ……これじゃあ勇者どころか、ビーム災害の元凶だ……」


 ギルドからも注意され、村からも追い出されたタカシは、ひとり放浪の旅を続けることになった。


 ——そんな中、立ち寄った村で新たなトラブルが発生していた。


 タカシが訪れた村では、「魔神の使者」が村を頻繁に荒らしているという話を聞く。村人たちは恐怖に震え、誰も立ち向かおうとしない。


「これって……もしかして俺の出番じゃないか?」


 タカシは自信を取り戻し、使者を倒す決意を固める。

「この青年でひとりで使者を倒せるのか?」と村人たちは半信半疑だったが、タカシの勇気に期待を寄せて見守った。


 やがて、空高くから不気味な影が村に向かって飛んできた。


「お前たち、今日こそ魔神様への貢物を用意したのか?」


 体長4〜5メートルはあろうかという巨体の背中から、さらに大きな黒い翼を広げた「魔神の使者」が村を見下ろし、脅しをかけてきた。

 村人たちは恐怖に凍りついたが、タカシは胸を張ってその前に立つ。


「俺が相手だ!もう村を荒らすのはやめるんだ!」


「愚か者め……俺に逆らえば、魔神様の制裁を受けることになるぞ!」


 タカシは身震いしながらも、ビームを構えた。


「ここで決めれば、英雄になれるんだ……ビーム、発射!」


 しかし、ビームは見事に外れ、使者はひらりとかわして笑った。


「ははっ、そんな攻撃、当たるわけがないだろう!」


「くそっ……今度こそ当ててやる!」


 タカシはビームを出し続けたまま、腕を大きく振り回した。狙いが定まらないままビームを振り回す姿は滑稽だが、運命の瞬間が訪れる。


 ビームが使者の羽根にかすり、翼にダメージを与えると、使者はバランスを崩して地面に落下した。


「痛……。よくもやってくれたな!魔神様に報告してやる!そしてお前は、惨たらしく殺されるんだろう!」


 怒り狂った使者は、山の方を指差して叫び始めた。


「魔神様、今すぐお出ましを!この愚か者を……」


 だが、使者が指差した山は、タカシの振り回したビームで真っ二つに裂けていた。しかも、その山には魔神様が眠っていたらしい。


「え、魔神……様……?」


 使者は呆然と立ち尽くし、次の瞬間、地面に崩れ落ちた。


「ま、魔神様が……死んだ……!?」


 タカシも驚愕の表情を浮かべ、村人たちも呆然としたまま山を見つめている。


「ま、まさか……俺、魔神まで倒しちゃった……?」


 事実、山は綺麗に二つに裂け、魔神の城は跡形もなく崩壊していた。


 村人の一人が感極まった声で叫んだ。


「英雄だ!この青年が、あの魔神を倒してくれたんだ!」


 その言葉に続いて、村人たちは歓声を上げ始めた。


「「ビーム!ビーム!ビーム!」」


 タカシは信じられない思いで、しかし満面の笑みを浮かべた。


「俺のビーム、やっぱりすごいんだな……!ありがとう未子さん!」


 村人たちは歓喜し、タカシは「英雄ビーム」として祭り上げられた。


 予想外の結果とはいえ、ついに彼は異世界で認められたのだ。

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普通の主婦が転生の女神として奮闘中ですが異世界知識はゼロです! 月亭脱兎 @moonsdatto

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