第7話 今時はダンジョン生配信でしょ!

 未子は今日も神殿で転生者を迎える準備をしていた。鏡に映る自分の姿を見て、「今日も美しいわねぇ」と満足げに微笑む。


 その時、魔法陣が輝き、一人の少年が現れた。10代前半の活発そうな少年で、目を輝かせている。


「おお!ここが異世界転生の神殿か!女神様、俺の願いを叶えてくれるんですね!」


「はいはい、ようこそ〜。転生サポートの女神こと田中未子たなかみこですぅ!」


(この子は若いわねぇ、わたしの息子と同じくらいだから中学生かしらね?じゃあわたしがリードしなくっちゃね)


「コホン!さあてどんなチートが良いかしら?俺TUEEEから死に戻りまで、なんでも任せていいわよ!」


「なにそれ、テンプレ古いっすね〜今流行んないっすよ」


「も、もちろん、あなたの希望でもいいのよぉ〜(古いって言われちゃった!だってしょうがないじゃないのぉ)」


「今キテるダンジョン配信者になって、攻略を生配信して異世界で有名になりたいんですよ!」


 未子は首をかしげた。


「ダンジョンで……配信者?異世界にインターネットってあるのかしら?」


 しばらく考え込んだ後、彼女は手を打った。


「わかった!背神者だわ!神に背く者ね!」


「え?」


「え?」


「だ、大丈夫よ、あなたの願い、ちゃんと叶えてあげるから!まかせなさーい」


 未子は微笑みながら続ける。


(神様の反対だから……地獄の王よね?設定に何かないかしらね……ん?これだわ!)


 少年は不安そうに聞いた。


「あの、ダンジョン配信の意味わかってるよね——」


「あったりまえでしょ!設定は『暗黒冥王のダンジョン』よ!最悪最強の冥王になって、冥府に落ちた者たちを絶望の底に突き落とすの!」


「ちょ、ちょっと待ってください!俺、ダンジョンを攻略する側になりたいんだけど!」


「まあまあ隠さなくていいって〜これが厨二病ってやつよね。うちの息子も時々、暗黒組織に狙われてるとか言ってたわ〜。可愛いわよねぇ」


 未子は設定リストを選び決定した。


「人間を苦しませるあらゆる暗黒チートが最初からついてるみたいだから、そっちは要らないわね」


「え?暗黒チート?そういうのは要らないんだけ……ど」


「それじゃあ、いってらっしゃ〜い!」


◇ ◇ ◇


 目を覚ますと、青年は暗闇の中に立っていた。足元には無数の魂がさまよい、空気は冷たく重い。


「ここは……どこだ?」


 自分の姿を見ると、黒い鎧に身を包み、手には巨大な鎌を持っている。


「え、俺が……冥府の王!?ダンジョン配信はどこ行ったんだよ!」


 魂たちは彼を見ると恐れおののき、逃げていく。


「待ってくれ!俺はただの配信者になりたかっただけなんだ!」


 声をかけても、誰も立ち止まらない。孤独と絶望が彼を包み込む。


「どうしてこうなったんだ……」


◇ ◇ ◇


 一方、神殿では未子が紅茶をすすりながら満足げに微笑んでいた。


「彼、今ごろ暗黒冥王の設定を楽しんでるわよねぇ。神に背きたいだなんて!若い子って本当に可愛いわ〜大人になったら上司にすら背けないのにねぇ」 


◇ ◇ ◇


 冥府では、青年が必死に現状を打開しようとしていた。


「こうなったら、冥府ダンジョンから逆配信してやる!ここを宣伝して挑戦者を募集してみよう!」


 しかし、地下から響く冥王の声を聞いた地上は大混乱に陥りダンジョンを訪れる者など皆無になっていく。


「くそっ、ダンジョンが危険過ぎて訪問者すら増えない!どうすればいいんだ?」


 その時、彼は暗黒チートの力で冥府に放送局を作れることに気づいた。


「よし、これだ!『冥府放送局』を開設しよう!」


 彼は『冥府チャンネル』を開設し配信放送を始めた。


「皆さん、聞こえますか?俺は暗黒冥王だけど、怖くないから安心してくれ!」


 最初は誰も反応しなかったが、毎日配信を続ける事で次第に挑戦者が集まり始めた。


「今日は冥府の新しい楽しみ方を紹介します!」


 彼の明るいトークに誘われて冥府ダンジョンは賑わいを見せる、そしてダンジョンで生を落とした魂たちで冥府の底は溢れかえってきた。


◇ ◇ ◇


 ある日未子は異世界の様子を覗ける鏡で『冥府チャンネル』という人気配信を見て驚いた。


「まあ!もしかしてあの彼がやってるの?チャンネル登録者数300万人?え?すごいじゃない!」


 未子は驚きつつも嬉しそうだ。


「やっぱり若い子は発想が豊かねぇ。私も見習わなきゃ!」


◇ ◇ ◇


 青年は冥府放送を通じて、魂たちに希望と娯楽を提供し続けた。


「次回は冥府地獄味の最恐グルメスポットを紹介します!チャンネル登録よろしくね!」


 魂たちからは大きな拍手が起こる。


「ありがとう!皆が笑顔になってくれて嬉しいよ!」


 こうして、未子のポンコツ女神生活は今日も賑やかに続いていくのだった。

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