第6話 死に戻り?じゃあ無限ループをどうぞ!

 未子は今日も神殿で転生者を迎える準備をしていた。

 

 最近は余裕も出てきたので、服装や髪型にも気を遣うようになっている。鏡に映る女神の姿はどこから見ても美しく、少し袖を短くしたり胸元を強調したり、セルフ着せ替え人形ように楽しんでいた。


「こんなに自分を鏡で見つめるなんて、現実世界じゃほとんどなかったわねぇ……歳をとってからはなおさら。でもこういうの忘れちゃだめよね〜」


 すると魔法陣が輝き転生者が現れた。

やたら真剣な顔をした20代前後の男性。ジャージ姿で髪は短く、少し目つきが……悪いように見える。

 

「あ、は〜い。転生の神殿へようこそ〜!女神の田中未子ですぅ!」


 未子を見た彼は少し興奮気味に駆け寄り、挨拶もなく言い放つ。


 「異世界に行けるのか?!じゃあ俺は……死に戻りの主人公になりたい!」


「……え?死に戻り?」


「ああ、何度も死んで、何度もヒロインを助けて、最後に愛の力を手に入れるんだ!」


 未子は、頭の中で完全に混乱していた。「死に戻り」のリクエストが何を意味しているのか、まるで理解できない。すでに彼は転生しようとしているのに、また死ぬことを望むとは、一体どういうことなのか……。


「でも、すでに死んでてこれから転生するのに、また死にたいの?」


「そうだ、死んで何度もやり直す異世界生活さ!ヒロインを救うために何度でも死ぬんだ。そしてまた戻ってくる!そして最終的に結ばれる!これが俺の憧れなんだ!」


 転生者は自信満々に語るが、未子はますます困惑する。


(ヒロインを助けたいのに、なんでわざわざ死ぬの?この人、本当に大丈夫かしら……。ヒロインを助けるなら、死なないほうがいいんじゃない?)


 未子は彼のリクエストを理解しようと必死になるが、どうしても納得できない。


「え〜と、死んだのに……また戻ってくる。そういうことかな?」


「そう、それが死に戻り設定!俺TUEEEEとかより断然かっこいい!」


(いつもの俺TUEEEEというあれじゃなく!?……でも待って……「死んだ人が戻ってくる」って言えば……ああ!)


「わかったぁ!」(お盆のことね!?)


「おー!わかってくれた?!」


 未子の脳内でひらめきが走る。お盆ではご先祖様が一時的に戻ってくる……。つまり、彼は「何度もお盆を繰り返したい」ってことだ、と勝手に解釈した。


(なるほど!何度もお盆を繰り返したいんだ。ああ!この人、夏休みが終るのが嫌なんだ!それはわかるかもぉ〜!)


 未子はさらに勘違いを膨らませる。


(確か、そういうアニメあったわよね……夏休みが終わらないやつ……タイトルは思い出せないけど……。あんな感じの設定?……なるほどね!)

 

 未子はしばらく考え込み、設定リストを確認した。そして【8月の無限ループ】という設定を発見した。


(設定:8月の無限ループはヒロインの「夏休みを終わらせたくない」という純粋な欲求が原因となり彼女が満足するまで夏休みの無限ループが続く。……なーんかちょっとだけ違う気もするけど、まあ大体これで合ってるわよね!)


「あなたが求めている設定があったわ!これで、何度でも同じことを繰り返せるわよ!よかったわね!」


 転生者は一瞬驚いたように見えたが、すぐに理解した顔をした。


「……じゃあこれで俺も晴れて死に戻り異世界生活の主人公になれるってわけだ!まってろよ俺の○ム!ありがとう、女神様!ついに俺の嫁に会える!」


「うん!君の嫁にもきっと会えるよ(ずっとお盆だからね!)」


 未子は笑顔で頷き、転生者に【8月の無限ループ】の設定を授けた。


「ちなみに、チートは要らねえよ!普通の男があがく方がっぽいからな!」


「そうなのね!じゃあチートなしで行っちゃえ〜」


◇ ◇ ◇


 そして彼の転生先での、無限ループ生活が始まった。

 異世界には転生したものの、冒険が開始されるフラグは一向に立たない。そのかわり与えられたのは、ただひたすら8月を繰り返す「夏休みの無限ループ」だった。


「えっ、また8月に戻った。もうこれで何度だ……?」


 何度も何度も同じシナリオが繰り返され、どんなに頑張っても次の月には進めない。


「これ、違うだろ!俺が求めてたのはこんなんじゃない!!しかもなんだよあの生意気な同級生ヒロインは!あいつ頭く○ってんじゃん!あともう一人はずっと本読んでて喋りもしないし……エルフのヒロインも双子のメイドもでてこないし!かんべんしてくれ。」


 そうやって彼は、何度も何度もお盆を向かえることになる。


 神殿で次の転生者を迎える準備をしている未子は、先ほどの転生者のことを思い出し、微笑んだ。


「彼、無限の夏休みループを楽しんでるかしら……うん、きっと彼も満足してるはずよね!」


 未子のポンコツな女神生活は、今日もまだまだ続く――。

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