第4話 魔法学院の女教師にしてあげる!
転生者たちの無茶なリクエストに振り回され続けている彼女だったが、今ではその対応にも少し慣れてきていた。
「さて、今日はどんな人が来るのかしら……」
神殿の床が再び輝き、光の中から現れたのは、どこか疲れた表情の女性だった。
長年の苦労が刻まれたその顔に、未子はすぐに親近感を覚えた。彼女は過去の自分と同じく、40代後半くらいの年齢に見えた。
女性は少し戸惑いながらも、深いため息をついた。
「私……事故で死んじゃったのにここは…。」
「い、いらっしゃーい!ここは異世界に転生するための神殿です!」
女性は異世界の意味がわかるらしくホッと胸を撫で下ろすと自分のことを淡々と話し始めた。
「わたし、シングルマザーで仕事も家事も子育ても、全部一人でやってきたんですけど……さすがに限界だったみたいで、運転中に居眠りで事故を起こしたんです……でも地獄じゃなくてよかった」
未子は彼女の話に耳を傾けているうちに、次第に目頭が熱くなってきた。
「……10年前に、夫の浮気で離婚して、それからずっと息子を育ててきたんです。仕事はOLで、家事も子育ても全部私一人で……辛かったです。でも……死んで異世界転生するなんて思いもしませんでした…よかった」
その言葉を聞いた瞬間、未子は思わず涙を流した。
「わ、わかるぅ〜、わかるわよぉ〜!!私も夫の浮気で苦労して、家計は火の車!それでも仕事と家のことを両立させなきゃならないのよね〜!もう、涙なしには聞けないわぁぁぁ!わぁぁぁん」
未子は彼女の手を握り締め、同じ境遇にある者として全力で共感した。女性も驚いたように未子を見つめたが、次第に安心したように笑みを浮かべた。
「前世よりぜったい幸せになろう!ね!」
「あ、あなたも同じような苦労をしてたんですね……」
それを聞いた未子は立ち上がり胸を張る。
「そうよ!だから、あなたには最高に良い異世界ライフをプレゼントしてあげたいの!もう辛いことは終わりよ!」
未子は鼻息を荒くし、心から女性を助けたい気持ちでいっぱいだった。
「本当ですか?じゃあ……異世界では、OLではなく、私の夢だった『教師』になりたいんです。子どもたちと一緒に成長できるような学校で、楽しく学園生活を送りたい……それが私の夢でした」
「なんて素敵な夢!えーっと教師ね……!任せて!最高の転生先を用意してあげるわ!」
未子は張り切ってリストを探し始めた。
教師として新しい人生を歩んでもらうための素晴らしい転生先を見つけるべく、目を皿のようにしてスクロールする。
「えーっと、教師……学校……あ、これなんか良さそうじゃない?」
未子が見つけたのは「魔法学院」という異世界だった。彼女はその異世界の設定を眺めながら、女性に向かって嬉しそうに勧めた。
「ねえ!魔法学院よ!異世界で魔法を教える天才教師になれるなんて、最高じゃない!どう?」
「魔法学院の先生!?素敵……!夢みたい……!」
女性は目を輝かせて喜んだ。
未子はその反応にますますテンションが上がり、彼女に最高の学園生活をプレゼントしようと気合いが入った。
「よーし、あなたを魔法学院の天才教師にして、生徒たちに尊敬される生活をプレゼントしちゃうからね!」
未子は意気揚々と転生設定を確認し始めたが、「女教師」という項目が見当たらない。
困ったようにしばらくリストを見つめていると、アルファベットで書かれた略語がいくつか並んでいるのが目に入った。
TS、GL、BL、NTR、TL、OP、MOB....
「え?何これ……でも、この中にあるかもしれないわね」
未子はしばらく考え込んだが、ふと閃いた。
(わかったぁ!OLって「オフィスレディ」だから、女教師は「ティーチャーレディ」よね?ってことは……TL!これで間違いないわね!)
彼女は得意げに頷き、画面に表示された設定「TL」を選択。
(あとチートもつけちゃおう!尊敬される教師だから…【無限魅了】これが良さそう。ポチッとな)
「よし!これであなたは魔法学院の女教師!最高に楽しい学園ライフが待ってるわよ!」
女性は満面の笑みで喜んだ。
「本当にありがとうございます!夢のようです……」
「うんうん、これで異世界ライフを思いっきり楽しんでね!」
未子は鼻息荒く、女性を送り出した。
「これでよし!あの人も幸せになれるはず……私、いい仕事したなぁ〜!」
◇ ◆ ◇
——そして転生した女性はというと。
その後、異世界魔法学院に到着し新しい人生を始めることになったのだが……彼女はすぐに何かがおかしいことに気づいた。
まず、自分の姿が教師というよりも、まるで絶世の美少女のようになっている。手足はスラリと長くウエストも細いのに胸は大きく形が良すぎる。
「え……私、こんなに若返っちゃったの……?」
さらに学院の教師も生徒たちも、彼女を見て目を輝かせているが、どこか妙に熱っぽい視線を向け、常にソワソワしていた。
次第に、彼女は気づいた。
なぜか異様にモテてるのだ、気がつくと自分の周りには信じられないほどのイケメン達が顔を赤くして集まって来ている。
「え、ちょっと待って……これ、なんかおかしくない!?」
彼女に待っている異世界ライフは「TL」の略が示す別の何かだった——。
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