第2話 無限の魔力を授けます!
神殿に再び魔法陣の光が輝き、未子は次の転生者を迎え入れようとしていた。
どんな人が来るかわからないから、いつも少し緊張するが、今回も例に漏れず変わった人が来そうな気がしていた。
すると、光の中から現れたのは、アニメTシャツを着たオタク風の30代くらいの男性。彼はリュックを背負い、派手なアニメキャラの缶バッジをいくつも身につけている。
未子を見るなり、彼は満面の笑みを浮かべ、声を張り上げた。
「フハハハ!ついに来たぜ……俺の転生の時が!」
未子はその自信満々な態度に少し戸惑いながらも、いつものように神殿のホスピタリティを発揮する。
「いらっしゃいませ〜!ここは転生神殿です!あなたはこれから異世界に転生しますよ〜!」
「もちろんだ!異世界転生は俺の運命。準備は万端だぜ!」
彼はドヤ顔で語りながら、未子に近づいてきた。
「それで、早速だけど俺が欲しいのは決まってる。『魔力が減らないチート』だ!無限の魔力を手に入れれば、どんな魔法でも使い放題だし、魔王だって一瞬で倒せるんだ!」
未子は「魔力」という言葉にピンと来ず、少し首を傾げた。
「えーっと、魔力って具体的には何かしら?」
「はぁ?魔力も知らないのか?ははーん、俺の知識を試しているのだな!いうなれば魔力は異世界の力の根源だ。つまりすべてに通じる力……俺たちの世界で言うところの燃料やエネルギーみたいなもんだ!」
彼はクイズに答えるようにドヤ顔で説明し胸を張る。しかし、未子はその「エネルギー」という言葉に反応し、全く別の解釈をしてしまった。
(あ、なるほど。人間にとってのエネルギーって『ご飯』のことよね。だからこの人、お腹が減らないチートが欲しいんだわ!それで異世界でも元気に過ごせるってことかしら?)
未子はしっかりと納得し、笑顔で彼に向かって言った。
「わかったわ!あなたの要求どおり、エネルギー(お腹)が減らないチートを授けますね!」
「おお!さすが女神だ!話が早い!これで俺は無限の魔力を手に入れたってことだ!」
彼はさらにドヤ顔で満足げに頷いているが、未子は心の中で別のことを考えていた。
(きっとこの人、お腹が減らないチートでダイエットしたいんだろうな。太ってると異世界でも大変だもんね)
未子の勘違いはさらに深まっていた。だが、転生者はまったく気づかず、さらなる要求を出してきた。
「ついでに、ハーレムも頼むぜ!俺、異世界でモはテモテになって女の子に囲まれたいんだ!」
未子は一瞬驚いたが、すぐに「お腹が減らないチート」とハーレムを結びつけることに成功(?)した。
「なるほど!でも大丈夫、この(お腹が減らない)チート能力があれば、異世界できっとモテるわよ!努力しなくても自然とそうなるわ!」
「自然と……モテモテ……?最高じゃないかー!」
とは言ったものの異世界の法則が痩せてる方がモテるかは正直わからない。
(でもまあ今の体型のままよりは健康的よね。)
彼は異世界での成功を確信し、さらに意気揚々とした態度を取る。
「そうか、やっぱり俺は選ばれた存在だったんだな……!無限の魔力にハーレムが手に入るってわけか!」
「そうそう!(お腹が減らないから)お金も溜まるし、異世界でみんなからモテること間違いなしよ!すべてがうまくいくわ!」
未子はニコニコしながら、彼に「お腹が減らないチート」を授けた。
彼は感謝の言葉を口にしながら、魔法陣に向かって歩き出した。
「ありがとう、女神様!これから異世界で最高の俺TUEEEEEを楽しんでくるぜ!」
未子は微笑みながら彼を見送り、ふと心の中でつぶやいた。
(ダイエットがうまくいけばいいけど……でも、お腹が減らないならきっと大丈夫よね)
彼は最後に満足げに振り返り、未子に向かって一言。
「頑張るよ!次に会うときは、俺は異世界最強のハーレム王になってるさ!」
「うん、頑張ってね!応援してるわ!」
彼は満面の笑みを浮かべ、光に包まれて消えていった。未子はほっと胸を撫でおろし、再び鏡に向かって小さくため息をついた。
「またひとつ勉強になったなぁ、魔力はご飯の意味と。この調子でどんどん女神っぽくなっちゃおう!」
未子のポンコツな女神生活は、まだまだ続く——。
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