第1話 必殺ビーム!ポンコツ女神の始動!

 広大な神殿の中、未子みこは鏡の前で途方に暮れていた。


 目の前に映る美しすぎる自分の姿。だがその美貌が活かせる状況ではない。


「どうしよう…この子ほんとに転生してきたけど、いきなりどうすればいいのよ…!」


 未子は額に手を当て、深いため息をつく。


 そもそも「チート能力」なんてものも何も知らないし、異世界ってどんな所なのかも全くわからない。見よう見まねでやるしかない。


「とりあえず、なんとかなるかしら……」


 そんなとき、床の魔法陣に居た少年が自分のほうにてくてくと近づいてきた。彼は20代前半くらいの、少しあどけなさの残る青年だ。彼は周りを見渡しながら、驚いた様子で叫んだ。


「……ここは?まさか異世界か?……いや女神の神殿だ!すげぇ本当にラノベみたいだ」


 (うわ、この人ちょと知識ありげじゃない?!何も知らないのバレたらどうしよう!)


 未子は内心焦るが、表情を作り直し、神聖な女神らしく(と自分で思う)ポーズをとる。胸を張って、朗々と声を出した。


「そ、そうなのぉ〜!ここは転生神殿!ようこそねえ!わたくしは、えーっと……女神の田中未子たなかみこです!よろしくお願いしま〜す!」


 青年は一瞬ポカンとしたが、すぐに何かおかしいと気づいた。


「ちょ、女神?え、そんな普通っぽい名前でいいのか?末子みこって……神社?」


「いいんです!細かいことは気にしなくて大丈夫!さ、早速ですが、あなたには『チート能力』ってやつをあげますから、安心してくださ〜い!」


 未子は自信満々に胸を張るが、青年の顔には疑問が浮かんでいる。


「え、チート能力って、具体的に何がもらえるんですか?俺、異世界に憧れてて無詠唱で最強魔法とか最初からレベルカンストの剣技とか俺TUEEEEが欲しいんですけど……」


「うーん、ん?えーっと何語かな?日本語でよろしくぅ!とりあえず剣とか魔法とか?……そうね、ちょっと待ってて!」


 未子は焦りながら、手元に何もない空間をひらひらと動かし始めた。すると何やらリストのようなものが空中に浮かんで見えた。


 青年にはまるで探し物をしているかのように、空気をかき回している変な女神が見えている。


「……何やってんですか?」


「ちょっと、チート能力って言ったけど、どこにあるのか知らないのよ。もしかして、前の女神が置き忘れたんじゃないかしら?さっき引き継ぎ急だったから……」


 青年は呆然とするが、未子は構わず言葉を続ける。


「とりあえず、何がいい?こう、パッとすごそうなの出したいんだけど……」


「いやいやいや!適当すぎるでしょ!チート能力って普通、勇者の命運を左右する大事なものでしょ!?この物語がウケるかどうかの肝ですよ!究極爆裂魔法とか、魔王も即死の超強い聖剣とか、そんな感じでいいんだよ!」


「え、じゃあ魔法にしとく?とりあえず、なんかビームとか撃てるやつで!」


「えっ、ビーム!?SF設定なの?ここって異世界でしょ、そんな雑な選び方でいいのか!?」


 青年は必死にツッコミを入れるが、未子は無視して手を空中で動かし、突然何もないところから指をピシッと鳴らした。


「よし!ビーム、やっぱ必殺ビームよね!いけるようにしといたわ!がんばってね!」


「えええええ!?ちょ、そのビームってどうやって使うんだよ!操作方法も説明なし!?そもそも俺、剣士とかになりたいんだけど!?」


「細かいことはいいのよ!あなた、どこかの冒険者ギルドとか?最初に出てくる小屋とかに行ったらたぶん説明してくれると思うから!」


「いやいや、チートに関しては女神の役目でしょ!?普通あっちじゃ隠すのがセオリーやん!そもそも何一つ説明してないじゃないか!」


 未子はにこやかに笑い、青年の肩を軽くポンと叩いた。


「大丈夫、大丈夫!君ならきっとなんとかなるって!チート持ってるんだから、余裕よ!さあ、次に行かなくちゃいけないから、出口はそっち!」


 青年は諦めたように呆れながら、魔法陣の外に歩き出したが、何か思い出したように振り返る。


「ちょっと待て!ビームって、どんなビームなんだ?どこから出る?あと威力とか制御方法とか、何もわかんないんだけど!」


 未子は一瞬困ったような表情を浮かべるが、すぐにニコッと笑って一言。


「ピンチになれば気合いで撃てるわよ!がんばって!」


「そんなのあるかあああああ!?」


 青年の叫び声を背に、未子は再び神殿の鏡の前に立ち、ため息をついた。


「ふぅ、なんとか一人目終わったわ。これ、意外といけるかも?」


 そう思った瞬間、床が再び光を放ち、今度は別の転生者が現れた。


(え、まだ次来ちゃった!?ちょっと、待ってよ!)


 未子の異世界女神としての適当すぎる奮闘は、まだまだ続く——。

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