第5話

ゆっくりとリオの身体に薬剤を投与する。

浅く息を繰り返し、身体が痙攣する様をジッと見つめた。


「リオ、リオ、リオッ……」


何度名前を呼ぼうが、頬を撫でようが、力一杯抱き締めようが――リオは俺に応えてくれなかった。


分かっていても、引き留めたかった。

息を引き取るその瞬間まで、リオは俺の腕の中に居たんだ。


「リオは優しすぎるんだよ」


タバコの火傷がある左手をそっと撫で、髪を右耳に掛けてキスを落とす。


まだ体温が残るリオの身体を綺麗なまま維持するために、髪の毛一本、血の一滴も取り零さないように処置していく。


ステンレスの上に寝かせ、汚れた身体を綺麗に拭きあげてから真っ白なワンピースを着せた。


「リオ。綺麗だよ、すごく似合ってる」


徐々に血の気が引いていくリオの顔は、とは思えないくらい綺麗だった。


死体はいくつも見て来たけど、死んでいく人間を見るのは初めてだった。


――不思議と怖いとは思わなかった。


相手がリオだからということもあるけど、最後の瞬間まで見届けることが、本当の別れになるだろうから。


リオと過ごす時間は長くも短く感じた。

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