第9話

お腹と背中がくっ付いちゃうんじゃないかってくらいぺったんこになったお腹を擦りながら仕事をする。


あの男がおかしかっただけでいつも通り、小汚い部屋で行う仕事は乗って出すだけだ。


でも少しだけ物足りなさを感じた。

あの感覚になれない。


それを感じる度にあの男の顔が浮かんでくる。

ふるふると首を振って切り替えるが、切り替える必要もなかった。


「よう」


偉そうに声を掛ける男が目の前に居るからだ。


「なんでまた練習なの!?」


「お前と一緒で覚えが悪いからな」


ケラケラと笑いながら縄を持つ男は「亀甲縛り」と言って変な結び方であたしを縛り付けた。


「お前すぐ股広げっから今日は亀になってろ」


身動きすら出来ないあたしはベッドで石のようにジッとして視線だけを動かす。


「名前は?なんて呼ばれてる?」


「217番……あとニーナって呼ばれる」


「ニーナね。歳は?」


「18歳だと思う」


「だと思う?」


「先輩が言ってたからわかんない」


「先輩?ここの年増のことか?」


「先輩だよ」


「なるほどな」


「練習しないと怒られるよ」


「言葉の練習してるだろ」


「言葉?意味ないよ、喋ること滅多にないもん」


「今喋ってるじゃねぇか」


「うん、今はね。でも他の仕事は喋らない。必要ない」


「俺は必要あんだよ」


「どうして?」


「……俺の名前は帳。25歳独身。職業は秘密で好きなタイプはボイン」


「何言ってるの?わかんない」


名前がトバリと歳が25ってことしか理解出来ないあたしは後半何言ってるのかさっぱりだった。

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