第4話

男に連れられてきた場所はいつもの部屋とは全然違って、階段を一つ登った所にちゃんと仕切られたドアがあった。


そのドアを開けると綺麗なベッドがあって、いつもの部屋よりも明るかった。


とばり様。お待たせ致しました」


深く頭を下げる男にあたしはびっくりして目を見開く。いつも偉そうな男の姿が、なんとも情けなく可哀想に見えた。


驚くあたしに舌打ちをして「ごゆっくりお楽しみくださいませ」と重たそうなドアを閉めた。


「おい」


閉められたドアに視線を向けたままでいるあたしに、どこかイラついた声で声を掛ける客にハッとして「いらっしゃいませ」と急いで挨拶をする。


客を怒らせると痛い思いをする。

これは意味が分からなくてもどうでもいい。ただ身体が痛くなるだけって分かってるから。


「名前は」


「名前はありません。217番です」


軽い受け答えは出来るくらいは喋れるけど、殆ど客と喋ったこと無いからどこまで言葉が通じるか分からない。


足元を見つめていた視線をゆっくりと客の方に持っていくと、少し小さいベッドのような椅子に座った男が臭い匂いを出す煙を吸っていた。


小汚い格好ではないちゃんとした格好で、男が着ているスゥツってやつよりピシッとしている。


顔は今までの客の中で一番綺麗な顔だった。


「217番がお前の名前か?」


「名前というものがそれならあたしは217番です」


「日本語はどこまで出来る?」


「日本語ってなにですか?」


「お前が喋ってる言葉だ」


「じゃあ日本語です」


「根本的な所から出来てねぇんだな」


フッと鼻で笑う客は臭い煙を吐き出して隣に座るように目を向けた。

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