Case 2 潜る街の殺人⑪
怒りで頬を真っ赤にしながら、ブリッジは答える。
「わたくしは昨夜は遅くまで、お屋敷で舞踏会でしたの! あなたのような田舎者は知らないでしょうが、わたくしのような身分では社交で忙しいのです」
「優雅なご身分ですこと。でも、朝まで夜通し踊っていたわけじゃないでしょう?」
「わたくしのお屋敷には寝ずの番が何人も立っております。もしも舞踏会の終了後に勝手に屋敷を抜け出したら、絶対に気づかれますわ」
私は失笑した。
「どうだか? どれくらいのレベルかは分からないけど、あんただって瞬間移動の魔法くらい使えるんじゃないの?」
「わたくしが瞬間移動で、〝潜る街〟まで来たとおっしゃいますの? そんな魔法を使ったら、それこそお屋敷の者すべてに気配で気づかれます!」
「たしか、この国の法律では、血縁者の証言には証拠能力がないはずよね?」
「お屋敷に暮らしているのは、わたくしの血縁者だけではありません! 多数の使用人が住み込みで働いていますし、出入りの業者に宿として部屋を貸すことも珍しくありませんわ」
ブリッジ嬢は、
「そういうあなたはどうですの? 昨夜の
「私は一晩中、教会の蘇生所にいた。あのドワーフの死体に付き添ってね」
「それを証明できる人はいまして?」
「蘇生所には巡回の見回りがいる。その人が私のことを見ているはずよ」
今度はブリッジ嬢が失笑する番だった。
「それが
そして真剣な表情に戻る。
「あなたほどの火炎魔法の使い手なら、人間を灰に変えることなど一瞬で終わるはず。見回りに挨拶してから蘇生所を出て、犯行を終えて、次の見回りが来るまでに戻るなんて造作もないはずですわ」
「そんな屁理屈をこねてまで私を犯人に仕立て上げようとするなんて、あんたのほうが怪しいわね」
「でも、わたくしには
「腕のいい魔法使いなら、どうとでもなるでしょう。ましてや、あなたはこの街の『魔法鑑識官』。記憶操作の魔法を使うことは違法だけど、あなた自身が『違法な魔法が使われたかどうか』を調べる立場にある。いくらでも誤魔化せるんじゃないの?」
「こ、こんな侮辱は初めてですわ!!!」
「気を付けることね。この国では、魔法で犯罪を犯した魔法使いは〝魔女〟として火あぶりよ?」
「こっちのセリフですわ~~~!!!!!」
◇
横で見ていたヨイチは、二人の男を肘で突いた。
「お二人さん、そろそろ止めに入ったほうがいいんじゃないかい?」
「う、うむ……」
リーガル衛兵長は、私たち二人の剣幕に
一方、リベットの顔には好奇心が浮かんでいる。
「人間というものは、感情的になっているときのほうが思わぬ本音が飛び出すものですぞ」
ヨイチは苦笑した。
「本音ったって、まるで
リベットは肩をすくめる。
「なるほど、一理ある。あんな低俗な言い争いをするまでもなく、事件の真相は明らかなのに」
次はどんな言葉でブリッジ嬢を侮辱しようかと考えていた。
相手も同じ考えのようで、私をじっと睨みつけていた。
ちょうど罵倒が途切れた一瞬の沈黙に、リベットのセリフが滑り込んできた。
――事件の真相は明らか?
私はリベットのほうを振り返った。
「リベットさん、今なんて言いました?」
ブリッジ嬢が続ける。
「ほらご覧なさい! リベットさんもあなたが犯人であることは明らかだとおっしゃっていますわ!」
リベットはガハハと笑った。
「いいや、ブリッジ嬢! そんなご冗談はおやめなさい」
「冗談ですって?」
彼女はあんぐりと口を空ける。
リーガル衛兵長が言う。
「動機もあり、目撃証言もある。これだけ条件が揃っているのに、犯人はストラス・アイラではないと言うのか?」
リベットは世間話をするように答える。
「もちろんですとも。もっと疑わしい人物がいるではありませんか!」
ヨイチが言う。
「いったい誰だい? その疑わしい人物ってのは」
「いやはや、ヨイチ嬢までそんな演技をなさるとは……」
リベットはクスクスと笑う。
しかし周囲の沈黙に気づいて、彼ははたと顔を上げた。
「もしや、まだお分かりでない? わしらの目の前には、これほど
リベットは
「ならば、いたしかたありません。ここはひとつ、名匠の種族ドワーフらしく、この謎、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます