Case 2 潜る街の殺人⑩



 ヨイチは答えた。

「――青だ」


 私は、さっと血の気が引くのを感じた。

 私の火炎魔法は、この街で一番熱い。

 ちょっとした〝小火球〟ですら、真っ青な光を放つ。


「なるほど、思った通りです」

 リベットはうんうんとうなずく。

「その光を見たのはヨイチ嬢お一人ではなく、複数の近隣住民から同じ証言を得ていると、さきほどブリッジ嬢はおっしゃいましたな? であれば、色についての証言も一致しているはず」

「ええ、その通りです。みなさま口を揃えて『青い光を見た』とおっしゃっていましたわ~♪」

 ブリッジ嬢は私に目配せする。

「さて、何か弁解の言葉はありまして? 殺人犯さん?」


 私はたじろぐ。

「なっ……そんな……」

 私が犯人でないことは、私自身が一番よく知っている。

「……か、火炎魔法の色だけで、私を犯人だと決めつけられては困ります!」

 リーガル衛兵長は鉄仮面のような表情で答える。

「しかし貴様の火炎魔法は、この街で一番高温なのだろう? 酒場やギルドの冒険者たちから証言を得ている。青い炎を扱える魔法使いといえば、ストラス・アイラをおいて他にいないと」

「それは私が鍛錬を積んできたからです! 私に言わせれば、魔法の心得がある人なら誰でも練習次第で青い炎くらい出せるはず。出せないほうが不思議だわ!」

 ブリッジ嬢は眉をひそめる。

「あら、それはわたくしが鍛錬不足だとおっしゃりたいの?」

「さっきの言葉、そっくりそのままお返しします。?」

「なんですって――!!」

 彼女は絶句した。


 私たち二人の言い争いをよそに、リベットはヨイチに耳打ちする。

「アイラくんの話は本当かね? 鍛錬次第で誰でも青い炎を出せるというのは?」

 ヨイチは苦笑を返す。

「理屈じゃそうかもしれないが――。よほどの才能の持ち主じゃなきゃ、炎の色を変えることなんてできないよ。あたしの地元でも、青い炎を扱う妖術使いなんて見たことがない」

 リーガル衛兵長が相槌を打つ。

「この仕事を続けて長いが、私も聞いたことがないな」


 ブリッジ嬢は怒りに震えながら言った。

「わたくしに青い炎が使えるかどうかを訊いた――。その意味が分かっていまして?」

「あら? 私の勘違いだったらごめんなさいね。『魔法鑑識官』なんて立場なのは、才能あふれる魔法使いだからでしょう? 青い炎を出すくらい、じゃないの?」

「そのセリフは、わたくしを犯人だと疑っているも同然ですわ!」

「私はまだそこまで言っていない。でも、自白ありがとう」


 ブリッジ嬢は歯を食いしばって、「きぃーっ!」と言った。

「わたくしが旧大陸の名門一族ブリッジ家の次期当主候補だと知っていて、そんな無礼を!?」

「残念だけど、私は新大陸の出身なの。旧大陸のことなんて、毛ほども興味を持たずに生きてきた」

「こ、この田舎者!」

迷宮都市このまちで出身地なんて関係ないでしょう、この自意識過剰!」


 ここまで来たら、売り言葉に買い言葉だ。

 徹底的にやってやる。


「……あんた、昨夜はどこにいたの?」

「まさか、本当にわたくしを疑って――」

「どうなの? 答えられないわけ?」

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