Case 2 潜る街の殺人①


 下級祭司テルティウスは目を閉じると、指を組んで祈りのポーズを作った。

 30代の男性。「下級」といっても、そこは聖眼せいがん教会の聖職者だ。服装は贅沢である。

 真っ白な法衣には金糸の刺繍がたっぷりと施され、首から下げた金色のペンダントには宝石が散りばめられている。


 彼の仕草を、私はじっと見つめた。


 私たちは、聖眼教会の「蘇生所そせいじょ」にいた。

 幅3メートル、奥行き5メートルほどの小部屋だ。

 蘇生所には、こういう小部屋がいくつも並んでいる。


 部屋の壁と床は石造りで、中央には大理石製の台がしつらえてある。

 その台の上には、今、小さな遺体が一つ。

 天窓から降り注ぐ朝日が、遺体のほほを撫でていた。


   ◇


 先に自己紹介をしておこう。

 私の名前は、ストラス・アイラ。21歳の魔法使い。

 3年前から迷宮都市シティ・オブ・ダンジョンに住み、冒険者として生計を立てている。

 女だと思ってあなどってもらっては困る。

 私の火炎魔法は、この街の誰よりも熱い。


   ◇


 テルティウスは小さく息を吸い込むと、祝詞を唱えた。

つぶやき……祈り……詠唱……信じろ!!!」


 大理石のベッドに寝かされた遺体が、ブルッと震えた。

 短く太い指が、ピクピクと動き始める。

 頬に血の気が戻ってくる。

 遺体の背丈は、人間の10歳児ほど。

 しかし、はち切れんばかりの筋肉が服の上からでも分かる。

 私たちの目の前に横たわっているのは、ドワーフの亡骸なきがらだった。

 炎のように真っ赤な顎ひげが、一瞬、フワッと逆立った。


 一瞬大きく息を吸うと、グレン・リベットはガバッと目を開けた。

 そして開口一番、言った。


「――なんたる不覚! !」


 私は深々とため息を漏らす。

「リベットさん、あなたはんですよ」

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