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桜の花が咲くころ。ジムに地元のテレビ局からの密着取材があり、昨年のクリスマスに試合をした有美子のインタビューが行われていた。貴子も少しばかりではあるがインタビューを受けた。テレビ局のクルーがジムから帰った直後。貴子にあいさつをした女子中学生が自転車でジムにやってきた。今日は高校の合格発表の日だった。ジムに到着すると、

「はじめまして。宮本さくらです。大串高校に合格して正式に入学することになったので入会届を出しに来ました。よろしくお願いします。」

と、あいさつをした。

「高校もジムもワタシの後輩になるんだ。さくらちゃんね。ヨロシク。」

と、貴子もあいさつをした。当日は、さくらの合格祝いも兼ねて貴子はさくらのミット打ちを付き合うこととなった。練習終了後、ロッカールームから出ると、

「私、実は今日が誕生日なの。15歳になったんだ。」

と、さくらが言うと、

「3月22日が誕生日なんだ。」

と、貴子は答えると、

「そうなの。プロを目指すんでしょ。」

と、貴子がさくらに聞くと、

「そうよ。貴子さんみたいな強い選手になりたい。」

と答えた。

「プロテスト。高校在学中には受験できるみたいだけど、早生まれになると高校在学中に試合できる機会は少ないみたいだね。今は16歳からボクシングのプロテストを受けることができるけど、16歳でライセンス取得の場合は17歳になるまで試合に出場できないという規定も追加された。私は、この規定がない時代にライセンスを取得したけど、誕生日が4月15日なので高2になったのと同時にライセンスを取得。その年の夏休みにプロデビュー戦を戦ったんだ。さくらちゃんは早生まれということで損というところもあるみたいだけど、プロのリングで一緒に戦えるようにがんばろうね。」

と貴子が言うと、

「はい。」

と、さくらは答えた。


 それから1週間後。有美子の密着取材のテレビを観た1人の女子高生が入会してきた。ジムの会長室から、しゃれたブレザーの制服姿の女子高生が会長室から出てきた。

「今日から一緒に練習することになった星川愛理奈さんです。今年の春に高校2年生になり、今までやってきた極真空手のパンチ力を強めたいと入会することとなりました。5月に17歳の誕生日を迎えるため6月にはプロテストを受験させる予定だ。それでは、愛理奈さん。あいさつをお願いします。」

と原島会長から言われると、

「星川愛理奈です。よろしくお願いします。」

と、あいさつをした。愛理奈の紹介が終わると、

「はじめまして。トレーナーの武田有美です。実は、私も空手の経験があるんだよ。ありなさん。もしかして、中学時代に極真空手のジュニアの大会で優勝した経験ありますね。」

と聞くと、

「はい。」

と、愛理奈は答えた。

「私も空手の経験を生かしてボクシングを始めたんだ。おそらく、セコンドに入る機会もあると思いますので、よろしくお願いします。」

と有美は愛理奈にあいさつをした。向かうの鏡でシャドーボクシングをしている貴子を見て愛理奈が近づき、

「正月の試合で日本チャンピオンになった吉見貴子さんですね。」

と聞かれて、

「はい。」

と貴子は返事した。

「今日から入会することとなりました星川愛理奈です。5月に17歳の誕生日を迎えるので6月にプロテストを受けます。貴子さんはフライ級ですよね。」

と聞かれると、

「そうだよ。」

と答えた。

「おそらく、私。貴子さんより1階級下のライトフライ級で戦うと思うから、スパーリングパートナーお願いすることあるかもしれないので、その時はよろしくお願いします。」

と、あいさつをした。当日の練習では、さくらのミット打ちのパートナーを貴子がした。さくらのミット打ちの練習が終わると、

「今日入会した星川愛理奈。通信制の椿学園の生徒だと思うよ。空手をしていた友達から名前聞いたことあるよ。有名な選手みたい。」

と、さくらが言うと、

「実は私。空手の情報は鈍くて当日入会して来て初めて知ったんだよ。星川愛理奈というコ。何だか強くなりそうな予感がするねー。」

と貴子は答えた。

「なんだか私も、そう思うね。」

と、さくらも愛理奈が強くなりそうな予感がするように感じた。練習終了後、ジムを出ると、貴子のスマホにメールが届いた。



 久しぶりです。

 東京で就職して2週間が経ち、新しい生活にも慣れてきました。

 つい先日。元プロボクサーの女性が新たに開業したボクシングジムが川崎にあると聞き、ジムの見学に行きました。

 地方から親元を離れてプロを目指す女子の衣食住に手厚いジムと聞いてましたので、地方出身の女子の練習生が目立ちました。

 ここのジムの会長さんの実家は川崎市内で不動産屋を経営しており、こことの業務提携から少しばかりアパートの家賃を安くしてもらえると聞きました。

 実家の両親にも相談して、ここのジムに入会してプロボクサーを目指すこととなりました。

 近々ではありますけど、貴子さんが所属する原島ジムに出稽古に行くつもりですので、その時はよろしくお願いします。


 さやか



 さやかからのメールを見た貴子は、さやかが出稽古に来るのを楽しみに待つこととなった。

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