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その日のアンダーカードで試合をして勝ったあずさからも、

「日本タイトル獲得おめでとう。」

とのお祝いの言葉があった。

「今日の試合、春樹君、試合の観戦には来ていなかったけど、彼、幼稚園教諭の資格を取得したんだよ。今後の春樹君の動向については、まだ、わからないけど、貴子が勝ったとの知らせを聞いたら喜ぶはずよ。」

と、あずさの応援に駆けつけた千晴が言っていた。しばらくして、貴子はケイタイを取り出して、自分が開設しているファンサービスの掲示板を確認した。1人の女子高生のファンからのコメントだった。



 貴子さん。日本タイトル獲得おめでとう。

 香川から応援してました。

 今年の春に高校を卒業することになり、高校卒業後は就職先の職場の近くのボクシングジムに入会してプロを目指してボクシングを続けていきます。

 アマチュアの全国大会では1回戦で、いきなり優勝した選手と対戦して惜しくも敗れました。この試合で対戦した相手も高校卒業後はプロ転向するとの話で、相手の方は近々ではありますが、地元の大阪でプロテストを受ける予定で合格すればB級スタートで6回戦でのプロデビューと聞いています。この悔しさは絶対に忘れない。今度は、この相手に勝てるようにプロのリングでリベンジしたい。貴子さんも私にとっては憧れの選手です。同じリングで共演できる日を目指してがんばります。


さやか



 しばらくして、ちえみからのメールが届いた。



 たかちゃん。チャンピオンベルト奪取。おめでとう。

 今日は初詣のバスツアーのガイドで応援に行くことできなかったけど、祝勝会には遅れて来るから待っててね。


 ちえみ



 このメッセージを見た貴子は、

「ちえみちゃんも遅れてだけど祝勝会には来るみたいだ。」

と有里に報告した。



 貴子が勝利してチャンピオンとなった昼間の盛り上がりをそのままに夜の祝勝会は有里の実家の酒屋で集まることとなった。祝勝会の食卓には寿司が出され、貴子のチャンピオンベルト奪取を寿司パーティーで盛り上げることとなった。祝勝会が始まってから1時間後に、ちえみは幼なじみの美保と共に祝勝会へとやってきた。

「昼は仕事があったんで遅れてゴメン。たかちゃんがチャンピオンになったの有里がメールで教えてくれたんだね。ありがとね。このメールが届いたから、仕事が終わってから、はるくんに電話したんだよ。はるくんも喜んでいたよ。しかし、はるくんは当日は青春18きっぷを利用して静岡へ行っていて、ワタシが祝勝会へ行く道中の時間帯でも電車の中との報告だった。話によると、大井川鉄道のSLを楽しんだと話しており、そこから新幹線を使わずに各駅停車利用で帰るみたいだって。だから、たかちゃんの祝勝会には行くことはできないとの報告だった。ワタシが、はるくんと連絡した段階では沼津あたりを電車で移動中との連絡があった。」

と貴子に報告すると、

「はるくん。相変わらずだな。ワタシの試合の当日は静岡でのSLイベントがあるから観戦には行けないとの報告がクリスマス前から言っていた。時間帯の問題から無理だと思っていたけど、有里は新幹線に乗ってでも祝勝会においでと言ってたんだよ。既に、はるくんには彼女がいるみたいで、おそらく彼女と2人で行ったはずだよ。だけど、有里は、はるくんに彼女がいることを知らず、プロ初黒星を喫した日と同じシチュエーションの告白劇をさせたいと考えていたみたいだ。ワタシの同門の有美子とつながっているから、何日か経ってジムでチャンピオンベルトを見せてくれとひょっこりと遊びに来るのではないのかと思うよ。」

と答えた。この日の祝勝会は夜中まで盛り上がった。


 貴子がチャンピオンベルト奪取となったマナミとの激闘から2週間後。貴子は初防衛戦へ向けての初練習へと再始動のためジムに行くと体験入会の女子中高生たちが練習に励んでいた。ほとんどが貴子に憧れての体験入会だった。

「たかちゃん。今日から練習か。実はな。たかちゃんの日本タイトル獲得をきっかけに女子の体験入会が急増。特に、女子中高生の体験入会が目立つんだ。おそらく、何人かは正式に入会する見込みだと聞く。チャンピオンとしての責任。しっかりと果たせよ。」

と原島会長から言われると、

「はい。」

と、貴子は答えた。練習を終えてジムのロッカールームから出ると、セーラー服姿の中学生が貴子が出てくるのを待っていた。

「吉見貴子さん。初防衛戦がんばってください。私、中3で高校受験なの。貴子さんが行った大串高校を受験するんで、高校に入学したらジムに正式に入会するつもりなの。正式に入会したら一緒に練習。お願いします。」

と言われた。

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