5

61ページ


 春樹が保育士になったことをきっかけに、春樹のいとこの春菜は主人の睦の理解ももらって通信教育で保育士の資格を取得するための勉強をして、晴れて保育士資格試験に合格。保育士免許を取得した。春菜の家の近所にある関内マリア保育園では、さやか先生が寿退職することに伴い、新たに保育士の募集が行われていたため、そこの採用試験を受けて見事に合格。来年の春から晴れて新米保育士としての第一歩を踏む予定になっていたのだ。

「そういえば、うちの保育園にもビッグニュースが。さやか先生が結婚退職することは知っていると思うけど、来年4月から西本先生が新しく赴任することになるんだよ。」

と、千晴が言った。

「もしかして、奈々子ちゃんのお母さんでは。と園内でウワサがあったので園長先生に聞いたら、本当みたいだね。」

と、あずさが答えた。

「奈々子ちゃんを園に預けていた頃は、彼女、清掃作業のパートをしていたみたいだけど、今年行われた保育士資格試験で合格して、ついに資格を取得したんだよね。」

と千晴が言うと、

「春樹君効果かな。話によると、彼も、幼稚園教諭の資格を取得するために勉強してるみたいよ。「ここ最近は、保育園と幼稚園の機能を1つの施設で集約した認定こども園というのもあるみたいで、できれば幼稚園の方の資格も取ってみたい。」と言っていたよ。」

と、あずさは言った。

「そういえば、保育士や幼稚園教諭の資格を取れば、赴任先さえ見つかれば、子供を持つ母親にとっては、他の仕事と比べて夜に家族との時間を多く取ることができると思うしね。私の大学時代の友達の赴任先の保育園では、40歳過ぎて新任保育士として赴任した女性がいるとの話を聞いたことがある。」

との話を千晴がした。

 一方、原島ジムの方では、女子高生プロボクサーとしてデビューした谷本みどりのウワサで持ちきりだった。ボクシング雑誌を取り出した有美子は、

”松中ジムの谷本みどり 2試合連続KO勝利”

との見出しで、11月に行われたデビュー2戦目のことについて取り上げられていたのだ。クリスマスイブに2度目の防衛戦を控えている有美子にとっては、防衛し続けると先々対戦しなければいけない強豪ということもあったらしく貴子達を交えて話題になっていた。

「そういえば、今度有美子ちゃんと対戦する藤井翔子というのも結構強いんだよね。左フックが武器で、カウンター攻撃を許すと、KOされる危険性があるとのウワサだから。」

と貴子は言った。マナミとの大勝負まで残り1カ月半となり、練習の方も日に日に厳しくなってきた。それから1週間後、東京・後楽園ホールで日本女子アトム級チャンピオンの長井まどかの防衛戦が行われ、1ラウンドKOでまどかが勝った。この試合が終わってからの勝利選手インタビューで、

「次の試合から1つウエイトを上げて戦います。」

と公言、直後に日本女子アトム級のチャンピオンベルトを返上した。まどかにとっては、いずれ有美子とグローブを合わせたいという野望もあったみたいだ。

 貴子と以前グローブを合わせた寛子は、有美子のタイトルマッチのアンダーカードのフライ級8回戦で名古屋の葵ジムに所属する西口真由子と対戦することが決まった。次の試合の対戦相手と詳しい日程が決まったので、寛子は光良にメールで、そのことを報告した。高校野球の秋の全国大会にあたる明治神宮大会に出場した西浜学園は、初戦で近畿大会で優勝した和歌山県の六十谷と対戦した。この大会から光良は監督からの粋な計らいからエースナンバーをもらってベンチ入り。今までチームに貢献した谷本光は2番目のエースとして背番号11をもらった。この試合は、谷本光が先発となったが、3回途中で右指のマメを潰して降板したため、彼に代わって光良がリリーフで緊急登板した。光良にとっては半年ぶりの公式戦。チームのみんなの力で年内に公式戦復帰を果たすことができた。ただ相手は高校野球王国とも言われている和歌山県の高校。そうは簡単に問屋はおろしてくれなかった。2-1とリードしていた8回表の六十谷の攻撃で打者11人の猛攻で、この回だけで7点を取られてしまい、2-8で試合に敗れた。全国の舞台で復帰戦のマウンドに立った光良は、大学野球の聖地で高校野球の東京都予選の会場ともなっている神宮球場で勝負の世界の厳しさを味わい、ほろ苦い復帰戦デビューとなった。それから2週間後、寛子は光良をデートに誘った。寛子と光良は公園のベンチに座った。

「私、近々再起戦を戦うことになったということはメールで知らせたよね。神宮での8回の集中打のことについては、もう引きずらない方がいいよ。春のセンバツがあるから。そこで結果残せよ。」

と寛子は光良を元気づけさせた。

「寛子さん、試合決まったんだってね。その日は練習休みだから応援に行くよ。」

と光良は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る